孟子は、武力による支配を否定した上で、仁をもって政治を行えば、民は自ずから集まると説きます。
そして、「王がもし仁政を施せば…」と仮定し、次のような具体的な未来像を描きます:
天下の人々の心を引き寄せる「仁の吸引力」
- 仕官希望者(=優れた人材)「皆、王の朝廷で働きたいと願うだろう」
- 農民たち「皆、王の田畑で耕したいと願うだろう」
- 商人たち「皆、王の市場で商売をしたいと願うだろう」
- 旅人たち「皆、王の国の道を通りたいと願うだろう」
- 圧政に苦しむ民たち「自国の暴君を訴えるため、皆、王のもとに駆けつけてくるだろう」
このビジョンは、仁政がもたらすものは単なる徳目の実現ではなく、実際の経済・交通・行政・国際関係における繁栄と安定であることを示しています。
結論:その時、誰もそれを止めることはできない
孟子は断言します。
「このようになれば、天下の人々が王に帰服するのを止めることは、
誰にもできなくなる(孰か能く之を禦めん)」
つまり、仁政は“無敵の吸引力”を持っているということです。
これは前節の「仁者に敵なし」の思想にも連なる、孟子の核心的信念です。
引用(ふりがな付き)
「今(いま)、王(おう)、政(まつりごと)を発(はっ)し、仁(じん)を施(ほどこ)さば――
天下(てんか)の仕(つか)うる者(もの)をして、皆(みな)王の朝(ちょう)に立(た)たんと欲(ほっ)し、
耕(たがや)す者をして、皆 王の野(の)に耕さんと欲し、
商賈(しょうこ)をして、皆 王の市(いち)に蔵(お)かんと欲し、
行旅(こうりょ)をして、皆 王の塗(みち)に出(い)でんと欲し、
天下の其の君(きみ)を疾(にく)ましめんと欲する者をして、皆 王に赴(おもむ)きて訴(うった)えんと欲せしめん。其(そ)れ是(か)くの若(ごと)くんば、孰(たれ)か能(よ)く之を禦(ふせ)げんや」
注釈
- 仁を施す…思いやりある政治を行うこと。民の安定と尊重を第一にする政治姿勢。
- 仕うる者…仕官希望者、公務につきたい者たち。
- 商賈(しょうこ)…行商と店舗商人の総称。
- 蔵す(おく)…商品を蓄え、商うこと。市場の繁栄を象徴。
- 行旅(こうりょ)…旅人。国の道路・治安・交通整備の恩恵を受けたい人々。
- 其の君を疾ましめんと欲する者…自国の暴君に苦しみ、正義を訴えたい民衆。
- 孰か能く之を禦めん…もはや誰も、それを止めることはできない。
パーマリンク案(英語スラッグ)
benevolence-attracts-all
(仁はすべてを引き寄せる)unstoppable-rule-of-kindness
(止められぬ仁の支配)rule-with-heart-reign-without-force
(心で治め、力なしで君臨せよ)
補足:徳は、人と国と時代を超えて集める力を持つ
この章は、孟子の「仁政主義」が単なる道徳の理想ではなく、
**現実的で具体的な政策インパクトをもたらす“システムとしての仁”**であることを明らかにしています。
- 優秀な人材が集まる
- 経済が発展する
- 国際的な信頼を得る
- 安全と治安が整う
- 抑圧されている者が救済を求めて集まる
まさに、王道の完成系は「集まる国」であり、「心が集まる国」こそが最強の国だという孟子の思想がここに表れています。
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