孟子は、為政者が民の死や飢えに対して無関心であることを、鋭く批判する。
富者の飼う犬や豚が、人間の食べるものを食べていても、誰もそれを取り締まらない。道端に餓死者が倒れていても、米倉を開いて米を施すことをしない。
そして、いざ人が死ぬと「それは凶作のせいだ」「自分のせいではない」と言い訳をする。
孟子はそれを、こうたとえる――
「人を刺して殺しておいて、『それは私ではない。武器が殺したのだ』と言うのと同じである」と。
もし王が、民の苦しみや死を天災のせいにせず、自らの責任として引き受け、誠実に政治に取り組むならば、天下の民は自ずとその王のもとへと集まるだろう。
引用(ふりがな付き)
「狗彘(くてい)人(ひと)の食(しょく)を食(くら)えども、検(けん)するを知らず。塗(みち)に餓莩(がひゅう)有(あ)れども、発(はっ)するを知らず。人(ひと)死(し)すれば、則(すなわ)ち我(われ)に非(あら)ざるなり、歳(とし)なりと曰(い)う。是(こ)れ何(なに)ぞ人(ひと)を刺(さ)して之(これ)を殺(ころ)し、我に非ざるなり、兵(へい)なりと曰うに異(こと)ならんや。王(おう)歳を罪(つみ)する無(な)くんば、斯(ここ)に天下(てんか)の民(たみ)至(いた)らん。」
注釈
- 狗彘(くてい)…犬と豚。富者が飼う家畜。人間と同じ食物を消費している象徴。
- 検する…管理・取り締まりを行うこと。民の飢えを見過ごしている状態。
- 餓莩(がひゅう)…飢えて死んだ人、あるいはその死体。
- 発する…倉庫の米を放出して施すこと。救済行動。
- 歳を罪する…凶作など自然現象のせいにすること。
- 兵(へい)…ここでは武器。行為を他の道具に転嫁する詭弁の象徴。
パーマリンク案(英語スラッグ)
own-the-blame
(責任を引き受けよ)no-excuse-in-famine
(飢えを天のせいにするな)true-leaders-accept-blame
(真のリーダーは責任を逃れない)
補足:言い訳の政治では、民の心は離れる
孟子がここで批判しているのは、**「形式的には整っていても、実際には民が救われない政治」**です。民が飢えて死んでいるのに、倉には米があり、権力者は家畜に餌を与えている――これは、資源が偏在しているにもかかわらず、民に行き渡らない不正義の象徴です。
そしてそれを「自分のせいではない」と言い訳する姿勢は、責任回避型リーダーの典型であり、それこそが政治の信頼を崩壊させる最大の原因であると、孟子は断言しています。
逆に、「民の不幸はすべて己の責任である」と覚悟し、真摯に対応する者のもとには、自然と人心が集まってくる――これは、どんな時代、どんな組織でも通用するリーダーシップの核心です。
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