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感情を制する者こそ、国を制する

貞観十六年、太宗は自らの感情や方針に迷いを抱きつつ、魏徴に「私の内面にある驕りや甘さ、感情の過不足について、遠慮なく進言してほしい」と求めた。

これに対して魏徴は、「賢者も愚者も、欲望や喜怒の感情を抱く点では変わらない」と答えた。
だが、**賢者はそれを節し、愚者はそれに流される。**この一点こそが、治世の行方と君主の命運を分ける分水嶺である。

太宗はすでに心に危機感を抱き、自らの心を観察しようとしていた。その姿勢自体が徳の証であり、魏徴は「その自制の志を末永く貫いていただきたい」と切に願った。

人の上に立つ者の真の力とは、外にある敵を制すことではなく、己の中の激情を制する力にある。


原文(ふりがな付き)

貞觀(じょうがん)十六年、太宗(たいそう)、魏徵(ぎちょう)に問(と)いて曰(いわ)く、
「古(いにしえ)の帝王(ていおう)を観(み)るに、位(くらい)を伝(つた)えて十代(じゅうだい)に及(およ)ぶ者(もの)あり。
また一代(いちだい)・二代(にだい)のみにして終(お)わる者(もの)あり。
さらには身(みずか)ら得(え)て、身(みずか)ら失(うしな)う者(もの)もあり。

ゆえに朕(ちん)は常(つね)に憂懼(ゆうく)を懐(いだ)く。
あるいは、生民(せいみん)を撫養(ぶよう)するも、その方針(ほうしん)を得(え)ず。
あるいは、心(こころ)に驕逸(きょういつ)を生(しょう)じ、喜怒(きど)その度(ど)を過(す)ぐ。

しかるに、朕(ちん)には自(みずか)ら知(し)ること能(あた)わず。
卿(きみ)これを爲(ため)に言(げん)ずべし。当(まさ)にこれを楷則(かいそく)と為(な)さん」

魏徵(ぎちょう)、對(こた)えて曰(いわ)く、
「嗜欲(しよく)・喜怒(きど)の情(じょう)、賢(けん)も愚(ぐ)も皆(みな)同(おな)じ。
賢者(けんじゃ)は能(よ)く之(これ)を節(せっ)し、度(ど)を過(す)ごさず。
愚者(ぐしゃ)は之(これ)を縱(ほしいまま)にして、多(おお)くは身(み)を失(うしな)うに至(いた)る。

陛下(へいか)は徳(とく)深(ふか)く思慮(しりょ)あり、安(やす)きに在(あ)りて危(あや)うきを思(おも)う。
伏(ふ)して願(ねが)わくは、陛下(へいか)常(つね)に能(よ)く自制(じせい)し、以(もっ)て其(そ)の美(び)を克(まっと)うし、
則(すなわ)ち万代(ばんだい)永(なが)く賴(たよ)らん」


注釈

  • 驕逸(きょういつ):驕り高ぶって、やりたい放題になること。
  • 嗜欲(しよく):欲望のこと。食欲・色欲・名誉欲などの総称。
  • 楷則(かいそく):模範とすべき姿勢・基準。
  • 安不忘危(あんふぼうき):安泰の中でも常に危機を意識している心構え。
  • 万代永頼(ばんだいえいらい):後世にわたり、民衆が頼みにする存在であること。

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