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勝ってもなお、慎む者だけが最後まで全うできる

歴史を見れば、大業を成し遂げた君主であっても、それを守り続けられる者は稀である。
太宗は、前漢の高祖・劉邦を例に挙げ、秦を滅ぼして天下を得たにもかかわらず、その後の振る舞いが多くの誤りを招き、政の継続を危うくしたことを語った。

皇太子である孝恵帝を退け、愛妾の子を寵愛した父としての偏愛。
国を支えた功臣である蕭何や韓信を不当に処罰し、他の功臣たちに不安を与えた君主としての背信。
このように、君臣・父子の道理を踏み外せば、いかに大業を得ても国は保てない。

太宗はこの反省を胸に、「いつ滅びてもおかしくない」との戒めを持ち続け、政の終始を全うする姿勢を示した。

大事を成すことよりも、それを守り続けるほうが難しい。
成功ののちこそ、慎みと節度を保つことが真の聖君の道である。


原文(ふりがな付き)

貞觀(じょうがん)六年、太宗(たいそう)、侍臣(じしん)に謂(い)いて曰(いわ)く、
「自古(いにしえ)より人君(じんくん)にして善(ぜん)を為(な)す者(もの)は、多(おお)くは其(そ)の事(こと)を堅守(けんしゅ)すること能(あた)わず。

漢高祖(かんこうそ)は泗上(しじょう)一(いち)亭長(ていちょう)のみ。
初(はじ)めは能(よ)く危(あや)きを拯(すく)い、暴(ぼう)を誅(ちゅう)して、以(もっ)て帝業(ていぎょう)を成(な)す。

然(しか)れども更(さらに)十数年(じゅうすうねん)を延(の)ばせば、
縦逸(しょういつ)によりて敗(やぶ)ること、亦(また)保(たも)つべからず。

何(なに)を以(もっ)てこれを知(し)るか。

孝惠(こうけい)は嫡嗣(てきし)の重(おも)きにして、温恭仁孝(おんきょうじんこう)たり。
而(しか)るに高帝(こうてい)、愛妾(あいしょう)の子(こ)に惑(まど)いて、廃立(はいりつ)を行(おこな)わんと欲(ほっ)す。

蕭何(しょうか)・韓信(かんしん)は功業(こうぎょう)高(たか)く、蕭(しょう)は繫(つな)がれ、韓(かん)もまた濫(みだ)りに黜(しりぞ)けらる。
自餘(そのほか)の功臣(こうしん)、黥布(げいふ)等(ら)は懼(おそ)れて不安(ふあん)となり、ついに反(はん)を為(な)す。

君臣(くんしん)・父子(ふし)の間(あいだ)、悖謬(はいびゅう)これ若(ごと)し。
豈(あ)にこれ国(くに)を保(たも)ち難(がた)きの明験(めいけん)に非(あら)ずや。

朕(ちん)これを以(もっ)て天下(てんか)の安(やす)きを恃(たの)まず、
毎(つね)に危(あや)きを思(おも)いて自(みずか)ら戒懼(かいく)し、以(もっ)て其(そ)の終(おわ)りを保(まも)たんとす」


注釈

  • 亭長(ていちょう):郷村の小役人。劉邦の出自を表す。
  • 拯危誅暴(しょうきをすくいぼうをちゅうす):民を苦境から救い、悪政を打倒すること。
  • 嫡嗣(てきし):正式な後継者(長男や正室の子)。
  • 悖謬(はいびゅう):道理に外れた状態。倫理的に乱れていること。
  • 戒懼(かいく):自らを戒め、恐れ慎む心。

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