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虚名のために、民を苦しめてはならない

貞観五年、中央アジアの康国が唐に属国となることを申し出た。
だが太宗は、その申し出を毅然と断った。

「歴代の帝王たちは、土地を広げて名を残そうとしたが、それは民を苦しめるだけのことであった。
仮に自分の利益になったとしても、人民に損があるのなら、私はそれを選ばない。
ましてや、ただの虚名のために、兵を出して民を疲弊させるようなことは、断じてしてはならない」

太宗は、康国が属国となれば、もし他国から攻撃を受けた際に援軍を送らねばならず、
そのために兵士が万里の遠征を強いられるという将来的な負担を見通していた。
帝王の本懐は、民に安らぎを与えることであり、自らの名声のために民を疲弊させることではない――それが太宗の選択だった。


■引用(ふりがな付き)

「若(も)し民(たみ)を労(ろう)して名(な)を求(もと)むるは、非(ひ)わが欲(よく)する所(ところ)なり。康国(こうこく)まさに帰附(きふ)せんとすといえども、須(すべか)らく許(ゆる)すべからず」


■注釈

  • 康国(こうこく):中央アジア・ソグディアナ地方にあった都市国家。現代のウズベキスタン・サマルカンド。
  • 属国(ぞっこく):名目的に宗主国(ここでは唐)に服属し、その保護下に入る国。
  • 虚名(きょめい):実態を伴わない名誉。見せかけの評判。
  • 兵行万里(へいこうばんり):兵が非常に遠方まで進軍すること。ここでは、帝国の外縁部まで遠征することによる民の負担を意味する。

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