―『貞観政要』巻五より:太宗の仁政、ひと羽の鳥にも及ぶ
🧭 心得
真の仁とは、力ある者が、弱きものの本性を思い、自由を与えることにある。
貞観年間、南方の林邑国(現在のベトナム中部)から献上された**白鸚鵡(しろおうむ)**は、よく人の言葉に応じる才鳥であった。しかし、寒さ厳しい長安の気候にしばしば苦しむ様子を見せていた。
それを見た太宗は、**「言葉を交わすほどの知性を持つこの鳥に、寒さに耐えさせる必要があろうか」**と哀れみ、林邑国の使者に命じて、故郷の密林へ返してやるようにした。
それは単なる慈悲ではない。他国からの貢物であっても、相手の“本性”や“適所”を尊重するという、太宗の深い人間観と仁政の現れである。
🏛 出典と原文
貞観中、林邑国、白鸚鵡を貢ず。
その性、言葉に巧みで、人の問いに応じること尤も善し。
しかし、しばしば寒気を嫌がる様子があり、「長安の気候はつらい」とも取れる言葉を口にした。
太宗これを不憫に思い、使節に命じて曰く:
「この鳥を林藪(密林)へと放ち、もとの自然へ返してやれ」。
🗣 現代語訳(要約)
林邑国から贈られた白鸚鵡が長安の寒さに苦しむ様子を見て、太宗は「知性あるものに無理をさせるべきではない」と感じ、貢物であるにもかかわらず、その鳥を故郷の密林へ返すよう命じた。
それは、仁政の本質が“自由と本性を守る”ことにあるという、静かで強い決断だった。
📘 注釈と解説
- 林邑国(りんゆうこく):現在のベトナム中部にあたる古代の国。唐代には進貢国として位置づけられていた。
- 鸚鵡(おうむ):言葉を模倣する能力で知られる鳥。古来より珍重された献上品。
- 苦寒(くかん):寒さを苦にすること。ここでは鸚鵡が不快を訴えた様子として記録されている。
- 愍(びん)ず:哀れむ、憐れみの情を抱くこと。
- 林藪(りんそう):密林、藪。ここでは鳥の本来の生息地を指す。
🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)
compassion-releases-the-bird
(主スラッグ)- 補足案:
return-to-nature
/freedom-over-possession
/kindness-to-a-gift
この章は、贈り物であっても、相手の本性と幸福を優先する姿勢を教えてくれます。
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