MENU

詔(みことのり)は汗のごとし――出す前に十度思え

―『貞観政要』巻四より:太宗の詔令観と制度重視の姿勢

🧭 心得

命令とは、ひとたび出せば取り消せないもの。だからこそ、詔や法律は、軽々しく発してはならない
貞観十一年、太宗は「詔・律・令・格・式(法令体系)」は常に一貫していなければ、民は混乱し、不正が横行すると語った。そして、古典と前代の実例を引いて、詔勅発出の慎重さを強調した。

とくに『易経』の「汗のように一度出れば戻らない」というたとえや、『書経』の「命令は慎重に、出せば必ず実行、変更してはならない」という言葉は、**統治の根本における「言葉の重み」**をよく表している。
太宗はまた、前漢の高祖劉邦と法制度を整えた蕭何の例を挙げて、制度の簡潔さと一貫性こそが理想であると諭した。


🏛 出典と原文

貞觀十一年、太宗、侍臣に謂いて曰く:

「詔勅(しょうちょく)、律令格式(りつりょうかくしき)――これらが常に一定でなければ、民は惑い、奸詐ははびこる。

『易経』は言う。**『渙、汗のごとくその大号を施す』**と。
意味は、命令とは汗のようなもので、いったん出ればもう戻らないということだ。

また『書経』には、**『命令を出すには慎重であるべき。出せば必ず実行し、あとから変えてはならない』**とある。

かつて漢の高祖・劉邦は日々多忙であったが、蕭何は小役人から身を起こしながら法制を制定し、その条文は**「一の字を書くように整っていた」**と称えられた。

そなたたちはこの教えを深く学ぶべきであり、私もまた軽率に詔令を出してはならぬ
詔や法律は慎重に審議し、長く続く制度としなければならない」。


🗣 現代語訳(要約)

太宗は、「詔勅や法律が頻繁に変われば、民は惑い、悪人の温床となる」として、命令は汗のように、いったん出せば戻せぬものと心得よと語った。詔勅や法制度は一貫性と持続性をもって整備されるべきだと訴えた。


📘 注釈と解説

  • 詔・律・令・格・式
    • :皇帝の命令
    • :刑罰に関する法典
    • :行政に関する法令
    • :律・令を補足修正する規則
    • :具体的な行政手続の様式
  • 「渙汗其大號」:『易経』「渙」の卦の一節。「王者の命令は汗のようなもので、いったん出たら取り返せない」の意。
  • 「令出惟行、弗爲反」:『書経』の一節。「命令は一度出したら必ず実行すべきで、後から変更してはならない」との意。
  • 蕭何(しょうか):漢の建国の功臣。法整備に尽力し、簡潔で秩序ある制度を築いた。

🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)

  • orders-are-irrevocable(主スラッグ)
  • 補足案:law-needs-consistency / no-recall-on-decrees / command-with-care

詔勅や法制度を“軽く扱う”ことが、いかに国家の基盤を脅かすか――太宗のこの章は、統治と言葉の重みを改めて私たちに問いかけています。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次