―『貞観政要』巻二より
🧭 心得
国を治めるとは、欲望を抑えることから始まる。
太宗は、国家の根本は人民であり、人民の生活の基盤は衣食であると説いた。そして、衣食を満たすためには農耕の時期を逸しないことが肝要であり、それを妨げるような戦争や土木工事を抑えるべきだとした。
王珪もまた、歴代の君主たちが贅沢や軍事に溺れたことにより国を滅ぼした例を挙げ、節度を保ち続けることの難しさを警告した。
太宗はその言葉を深く受け止め、自らの欲望を抑えることが、人民を苦しめない唯一の道であると断言した。
🏛 出典と原文
貞觀二年、太宗謂(たいそうい)いて曰(いわ)く、
「凡(すべ)ての事は皆(みな)須(すべか)らく本(もと)を務(つと)むべし。国(くに)は人(ひと)を以(もっ)て本(もと)となし、人は衣食(いしょく)を以(もっ)て本(もと)となし、衣食を営(いとな)むには、時(とき)を失(うしな)わざるを本(もと)とす。
時を失わざるは、君主(くんしゅ)の簡静(かんせい)に在(あ)り。もし兵戈(へいか)しばしば動(うご)き、土木(どぼく)やまず、しかも農時(のうじ)を奪(うば)わざらんと欲(ほっ)すれば、果たして得(え)らるべけんや」。
王珪曰、「昔(むかし)秦皇(しんこう)・漢武(かんぶ)は、外(そと)には兵戈を極(きわ)め、内(うち)には宮室(きゅうしつ)を崇侈(すうし)し、人力(じんりょく)は疲弊(ひへい)し、災難(さいなん)はそこより興(おこ)る。彼(かれ)は人(ひと)を安(やす)んぜんとせざらんや。安人(あんじん)の道(みち)を知らざるのみ。
隋(ずい)の轍(てつ)を見れば殷鑑(いんかん)遠からず、陛下は自(みずか)らこれを承(う)け、改(あらた)むる術(すべ)を知(し)る。然(しか)れども、始(はじ)めにおいては易(やす)く、終(お)わりまで貫(つらぬ)くは難(かた)し。願(ねが)わくは慎(つつし)みを始(はじ)めのごとくし、美(び)を尽(つ)くされんことを」。
太宗曰、「公(こう)の言(げん)、是(ぜ)なり。そもそも、人(ひと)を安(やす)んじ、国(くに)を治(おさ)むるは、惟(ただ)君(きみ)に在(あ)り。君無為(むい)ならば人は楽(たの)しみ、君多欲(たよく)なれば人は苦(くる)しむ。
ゆえに我(われ)は情(じょう)を抑(おさ)え、欲(よく)を損(そん)じて、己(おのれ)に剋(か)ち、自(みずか)らを励(はげ)ますのである」。
🗣 現代語訳(要約)
太宗は、人民の生活を守るには、無益な戦や工事を避け、農業の時期を損なわないことが必要だと説いた。王珪も、歴史上の失敗に学び、慎みを保ち続けることの重要性を進言。太宗はそれに同意し、君主が自らの欲を抑えることこそが、人民を苦しめず国を治める道だと語った。
📘 注釈
- 衣食(いしょく):生計の基本であり、民の生活安定の要。
- 簡静(かんせい):簡素にして静か。無為の治世の理想。
- 隋の轍(てつ):隋王朝の失政に学ぶという戒め。
- 剋己(こっき):自分自身の欲望や感情に打ち克つこと。
🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)
restrain-to-rule
(主スラッグ)- 補足案:
peace-through-simplicity
/no-peace-with-vanity
/ruler's-restraint-makes-prosperity
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