―『貞観政要』巻一より
🧭 心得
真の礼儀とは、かたちにこだわることではなく、道理にかなっていること。
太宗は、自身の名に含まれる文字であっても、必要以上に避けるのは道理に反するとして、古の礼典に則るよう改めた。伝統に見えて実は後世の独善であるものを見極め、無意味な形式に囚われることなく、簡素で理にかなった礼を貫こうとした姿勢には、指導者のあるべき姿があらわれている。
🏛 出典と原文
太宗初(はじ)めて卽(すなわ)ち位(くらい)に卽(つ)き、侍臣(じしん)に謂(い)いて曰(いわ)く、「『禮(れい)』に準(のっと)りて、名(な)を將(まさ)に諱(い)み、古(いにしえ)の帝王(ていおう)、亦(また)生(い)きながら其(そ)の名(な)を諱(い)まず。故(ゆえ)に文王(ぶんおう)の名(な)は昌(しょう)なり、『詩(し)』に云(い)う『克(よ)く厥(そ)の後(こう)を昌(さか)んにす』。春秋(しゅんじゅう)の時、魯(ろ)の莊公(そうこう)の名(な)は同(どう)なり、十六年の『經(けい)』に『斉侯(せいこう)・宋公(そうこう)同盟(どうめい)於(お)いて幽(ゆう)』と書す。唯(た)だ後代(こうだい)の諸帝(しょてい)、節制(せっせい)を為(な)し、特(こと)に令(れい)して生(い)きながら其(そ)の諱(いみな)を避(さ)けしむ。理(ことわり)允(まさ)に非(あら)ず、宜(よろ)しく改張(かいちょう)有(あ)るべし」と。
因(よ)って詔(みことのり)して曰(いわ)く、「『禮(れい)』に依(よ)れば、二名(にな)の義(ぎ)は一(ひと)つの字(じ)を諱(い)まず。尼父(じほ)は聖人(せいじん)にして、非(ひ)ずんば指(しる)さず。今(いま)世(よ)の以(もっ)て来(き)たるや、曲(くま)げて節制(せっせい)を為(な)し、両字(りょうじ)を諱(い)みて廃闕(はいけつ)すること已(すで)に多(おお)し。意(こころ)に任(まか)せて行(おこな)い、經語(けいご)に有(あ)らず。今(いま)宜(よろ)しく禮典(れいてん)に依據(いきょ)し、務(つと)めて簡約(かんやく)に從(したが)い、先哲(せんてつ)を仰(あお)ぎ效(なら)い、法(のり)を将来(しょうらい)に垂(た)るべし。其(そ)の官號(かんごう)・人名(じんめい)、及(およ)び公私(こうし)の文(ぶん)に『世(せい)』と『民(みん)』の両字(りょうじ)有(あ)るも、連(つら)ならざれば読(よ)むを避(さ)けず、並(なら)びに避(さ)くるを須(もち)いず」と。
🗣 現代語訳(要約)
太宗は、自身の名に使われている文字「世」「民」を、公文書や人名などでいちいち避ける必要はないと詔を発した。これは、後世の形式主義を改め、古来の礼に立ち返るための決断であった。
📘 注釈
- 諱(いみな):本名のこと。死後にはこれを避けて呼ぶのが礼とされた。
- 避ける:文字を使わないこと。たとえば名に含まれる字を他の言葉に言い換えること。
- 禮典(れいてん):礼法の典籍。『礼記』などの古典に基づいた規範。
- 簡約(かんやく):無駄を排し、簡素であること。理にかなう礼儀のあり方を示す。
🔗 パーマリンク案(英語スラッグ)
ritual-must-follow-reason
(主スラッグ)- 補足案:
form-vs-principle
/names-and-etiquette
/no-to-empty-rituals
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