人を得ることこそ政治の要、そして学識こそその資格
貞観二年、太宗は政治の本質について語った。
「政治の要は、ただ人材を得ることにある。もし才能のない者を用いれば、国家は乱れる」と明言し、
任用における最も重要な基準は「徳行」と「学識」であると強調した。
これに対して諫議大夫・王珪(おうけい)は、学識を欠くことの危うさを、漢の昭帝時代の逸話を用いて説いた。
武帝の子であると称する偽の人物が現れた際、数万人の群衆が惑わされた中で、
雋不疑(しゅんふぎ)という者だけが『春秋』の故事を引き、「たとえ本物でも法に照らせば罪人である」と断じた。
昭帝はこのことから、「公卿や大臣には、経学に通じ、古義に明るい者を登用せよ」と命じた。
王珪はこの故事を引用して、「これは文書作成だけの俗吏(そくり)には到底真似できぬ判断である」と断じた。
太宗はこの意見に深く同意し、「まったくその通りだ」と応えた。
出典(ふりがな付き引用)
「為政(いせい)の要(かなめ)、惟(ただ)人(ひと)を得(う)るに在(あ)り。用(もち)うること其(そ)の才(さい)に非(あら)ざれば、必(かなら)ず治(ち)を致(いた)すこと難(かた)し」
「人臣(じんしん)もし学業(がくぎょう)無(な)ければ、往昔(おうせき)の言(げん)や行(こう)を識(し)ること能(あた)わず」
「漢昭帝(かんしょうてい)の時(とき)、有人(ゆうじん)詐(いつわ)って衛太子(えいたいし)を称(しょう)し、聚観者(しゅうかんしゃ)数万人(すうまんにん)、衆(しゅう)皆(みな)惑(まど)う」
「昭帝曰(いわ)く、『公卿大臣(こうけいたいじん)は、当(まさ)に経学(けいがく)を用(もち)い、古義(こぎ)に明(あき)らかなる者(もの)を用(もち)うべし』」
注釈
- 徳行(とくこう):人格・行いの優れた点。誠実で信頼に値する人物性。
- 学識(がくしき):特に古典・経書への理解。政策判断の根拠となる知。
- 俗吏(そくり):単なる書類官僚。形式的な業務に従事するが、見識に乏しい。
- 蒯聵(かいかい):春秋時代・衛の太子。政争により追放された後の故事。
- 雋不疑(しゅんふぎ):漢代の儒者。的確な歴史判断によって注目された人物。
パーマリンク(スラッグ)案
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(学ある者に政を任せよ)wisdom-before-rank
(位より知が先)classics-inform-judgment
(古典が判断を導く)
この章は、「徳と知のある人を選ぶ」ことが政治の最も重要な基礎であり、
**“学問は机上の知識にとどまらず、正義の判断力を養う手段である”**という太宗の理念を明確に表しています。
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