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学びの系譜を敬い、未来の学を育てよ
貞観十四年、太宗は儒学の発展に尽くした歴代の大学者たちを顕彰する詔を発した。
梁・陳・隋・北周など各時代の名儒――皇侃・褚仲都・熊安生・沈重ら――の学説は、当時の学生たちに広く学ばれていた。
太宗は彼らの学徳を記録に残すとともに、その子孫を調査し、表彰の対象とするよう命じた。
さらに貞観二十一年には、儒学の正統たる古の大学者――左丘明・子夏・公羊高・孔安国・鄭玄・馬融・盧植など、
経典の注釈と伝承に大きな影響を与えた21人を特別に選び、国子監の教材として用いられていることを根拠に、
孔子廟において孔子と共に祭祀されるように命じた。
これは、「学術を支えた者への礼と尊敬」が制度化された瞬間であり、
知の継承者に対して政治がどれだけ敬意を払うべきかを示す文化政策である。
太宗のこの姿勢は、「知識の力を国の根本に据える」という思想の具体化であり、
“現在の学び”が、“過去の蓄積”に根ざすことを自覚せよという強いメッセージでもある。
出典(ふりがな付き引用)
「並(なら)びて前代(ぜんだい)の名儒(めいじゅ)、経学(けいがく)記(しる)すべし」
「加(くわ)うるに在学徒(ざいがくと)其(そ)の疏(そ)を多(おお)く行(おこな)う」
「理(ことわり)において襃崇(ほうすう)するに合(がっ)す」
「自(よ)り今(いま)太学(たいがく)に事(こと)有(あ)らば、並(なら)びて尼父(じほ:孔子)の廟堂(びょうどう)に配享(はいきょう)すべし」
注釈
- 疏(そ):経書の注釈書。儒学者の学説の形で、教育の教材となった。
- 配享(はいきょう):儒教儀礼において、主祭神(この場合孔子)とともに祀ること。
- 襃崇(ほうすう):功績を称えて顕彰すること。
- 国胄(こくちゅう):国子監に代表される国家教育制度を担う学問的な系譜。
- 尼父(じほ):孔子の尊称。
パーマリンク(スラッグ)案
honor-the-forebears
(学の先人を敬え)ritualize-scholarship
(学徳を制度で讃えよ)legacy-of-learning
(学問の遺産)
この章は、学問や知の源流に敬意を表することが、後進の士の志を奮い立たせ、国家の文化基盤を固めることに直結するという理念を示しています。
儒学を重んじた唐代の統治思想が、政治・教育・礼の融合によっていかに展開されたかの典型例です。
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