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第四章「五胡十六国の君主の教訓」解説

◆ 現代語訳

貞観十六年(642年)、太宗が側近に語った。

「最近、私は劉聡の伝記を読んだ。劉聡は、劉皇后のために立派な儀殿(式典用の宮殿)を造ろうとしたが、廷尉(司法長官)の陳元達が強くこれを諫めた。すると、劉聡は激怒して、陳元達を斬ろうとした。

しかし、劉皇后が自ら直筆で上奏文を書き、切々と陳元達の命を救うよう嘆願した。その誠意に触れ、劉聡の怒りはようやく収まり、自分の行為を深く恥じたという。

書物を読むのは、ただ知識を得るためではなく、見聞を広めて自らの戒めとするためである。だから私は、この劉聡の話を深く心に刻むべき戒めとしたい。

実は私は近ごろ、何層にも重なった高殿を造営しようと考え、藍田県で木材を伐採させ、準備もすでに整えていた。しかし、この劉聡の故事を思い返し、この造営計画を中止することにした」。


◆ 注釈と背景

  • 劉聡:五胡十六国時代、前趙の第3代皇帝。漢人ではなく匈奴系出身で、贅沢と残虐で知られた君主。
  • 陳元達:廷尉(司法長官)として君主に諫言を行った忠臣。その勇気ある直言が、一度は劉聡の怒りを買った。
  • 劉皇后:劉聡の妃。夫の過ちを正そうとする徳ある行動をとり、結果的に忠臣を救った。
  • 藍田県:現在の陝西省長安付近、豊かな森林資源がある木材の供給地。太宗が宮殿造営の準備を進めていた場所。

目次

本章から導かれる「心得」

◉ 1. 書物は己を戒めるために読むもの

太宗は歴史を鏡として自らを律した。読書の目的は単なる教養や知識の獲得にとどまらず、過去の失敗から自分の行動を正すことにある。この姿勢は、あらゆるリーダーが持つべき重要な資質である。

◉ 2. 忠臣と賢妃の言葉を聞くべし

劉聡が怒りに任せて忠臣を殺そうとしたのに対し、劉皇后の忠告を受け入れて怒りを収めたという話は、為政者にとって**「誤った感情を抑え、正義ある意見を受け入れる姿勢」の大切さ**を物語っている。

太宗もこの話を通じて、「怒りによって正しき忠言を斬ってはならない」という自戒を込めて語っている。

◉ 3. 贅沢はやめるに限る、欲望には終わりがない

すでに木材まで用意していたにもかかわらず、太宗は建設を中止した。これは準備が整っていても、正しくないと気づけば引き返す勇気が必要であるという教訓である。

また、贅沢な建築物を求めること自体が、支配者としての品格を失うことになりかねないという点でも重要である。


総まとめ:「節度と知見のある君主であれ」

この章は、過去の失敗から学び、節制を守る統治者の姿勢を如実に示している。太宗が自らの振る舞いを、亡国に繋がった劉聡の例から反省している点は、まさに「徳による統治(徳治)」の理想を体現している。

「己を戒め、忠言を受け入れ、節制を貫く」――この姿勢があってこそ、国は治まり、人心は帰服するのである。

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