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第四章「項羽は信に欠けていた」

■現代語訳

貞観十七年(643年)のある日、太宗は側近に語りました。
「『論語』には、『食を捨てても信を捨ててはならない』と記されている。孔子もまた、『民に信がなければ国は成り立たない』と述べている。

昔、項羽が咸陽(秦の都)に入ってすでに天下を制したとき、もし彼が仁と信を尽くしていれば、誰が彼から天下を奪えただろうか?(奪えなかったはずだ)」。

それに対して房玄齢が答えました。
「仁・義・礼・智・信という五つの徳(五常)は、人として常に守らねばならないものです。これらのうち一つでも欠けてはなりません。

五常を誠実に実行すれば、必ずその人に益となります。殷の紂王は、この五常を侮ったため、周の武王に国を奪われました。
また、項羽はこの中の『信』を欠いていたために、漢の高祖・劉邦に天下を奪われたのです。

陛下のおっしゃることは、まったくそのとおりでございます」。


■解説と考察

1. 孔子の「信」重視

  • 冒頭の太宗の引用は『論語』の【顔淵篇】と【八佾篇】から来ています。
    • 「民無信不立」=「民に信なければ、国家は成立しない」。
      → これは統治における信頼と信用の絶対的な重要性を説いたものです。

2. 項羽の失敗の原因は「信の欠如」

  • 太宗は、項羽の失敗の核心は「信義を欠いたこと」にあると見ています。
    • 項羽は咸陽に入城した後、劉邦と約束していた「不入関中」の言を翻し、秦王子嬰を殺して宮室を焼いたことで信を失い、人心を離反させたとされています。

3. 房玄齢の「五常」理論

  • 「仁・義・礼・智・信」=儒教の五つの根本的徳目(五常)
    • 房玄齢は「五常のうち一つでも欠けては国は成り立たない」とし、項羽の「信の欠如」を的確に分析しています。
    • これは、誠信を単独で語るのではなく、他の徳と有機的に関連づけて解釈する立場です。

■心得・リーダーシップへの応用

この章から導かれる現代的教訓は以下のようにまとめられます。

信を失えば、力も地位も長くは続かない。組織の根幹は、信義と誠意にあり。

  • 強い力(項羽)や才能(紂王)を持っていても、信を失えば破滅する
  • 信用を得るには、一貫性・約束の履行・誠実な姿勢が不可欠である。
  • リーダーはその行動や言葉で信を体現し、部下や民の信頼を築かねばならない。

ご希望があれば、この章を元にした企業理念・組織行動の原則・心得文などに再構成することも可能です。お気軽にお申し付けください。

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