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第六章 公平な意見を採用しなかった後悔


現代語訳

唐の太宗の時代、刑部尚書(司法長官)の張亮が「謀反の疑い」で告発され、裁判にかけられることとなった。
太宗はこの件を官僚たちに審議させたが、多くの者が「張亮は死罪に値する」と述べた。

しかし、ただ一人、殿中少監(宮中警備官僚)の李道裕はこう主張した。

「張亮には謀反の決定的証拠がありません。無罪が明らかです。」

しかし、太宗は当時、激しい怒りの最中にあったため、結局、張亮を処刑してしまった。


それからしばらくして、刑部侍郎(司法副長官)のポストに欠員が出た。
太宗は宰相たちに「適任者を推挙せよ」と命じたが、誰もふさわしい人物を挙げられなかった。

そのとき太宗は言った。

「私はすでに最適任者を知っている
以前、張亮の謀反の件を議論したとき、李道裕は『反意の証拠はない』と明言した。
あれは真に公平な意見だった。
当時、彼の意見を採用しなかったことを、私は今でも悔やんでいる。」

こうして、太宗は李道裕を刑部侍郎に抜擢した。


注釈と背景

  • 張亮:貞観初期の重臣。後に謀反の嫌疑を受けたが、その真偽には疑問がある。
  • 李道裕:この事件で唯一、公正な立場から「証拠不十分」を理由に無罪を主張した人物。
  • 刑部侍郎:当時の司法副長官であり、重要な法務官職。
  • 太宗の後悔:後から冷静になって、感情による判断を悔いた姿勢は、太宗の「公平の精神」の一つの実践例といえる。

心得

1. 公平とは、少数意見でも貫く信念

李道裕は、多数が死刑と断じる中でただ一人、証拠の欠如を理由に「無罪」を主張しました。
「空気」に流されず、法と証拠の原則に従って判断する勇気こそ、公平の真髄です。

2. 怒りは判断を曇らせる最大の敵

太宗は、怒りに駆られて冷静な判断を欠き、一人の命を奪ってしまった
その後悔が、優秀な人材(李道裕)を見出すきっかけとなったとはいえ、
感情で法をゆがめることの重大さがここでは痛切に語られています。

3. 過ちを認めて人材を正しく用いる器量

太宗は、かつて退けた李道裕の意見を後に「公平」と認め、
自らの判断ミスを率直に悔やみ、その人物を適材適所に登用した
これは「誤りを恐れるな、誤りを改めないことを恐れよ」という教訓を象徴する行動です。


まとめ

「正しいことは、たとえ孤立していても尊ばれねばならない」
「怒りに任せた決断は、後の悔いを生む」
「後悔を力に変え、賢者を登用するのが、公正な政治」

この章は、法治と公平、そして指導者の修養について多くを語ってくれます。
現代においても、企業の懲戒判断・組織のリスク管理などにおいて、大いに示唆に富む内容です。


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