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節度と敬意を失えば、君の道は滅びに向かう

皇太子・李承乾の放縦と奢侈は、ついに極みに達した。宮室の過剰な増築、淫靡な音楽への耽溺、労働力の酷使、異民族の招き入れ――。
これらの振る舞いに、太子詹事の于志寧は繰り返し文書で諫言を行った。

「倹約こそが道を広め、奢侈は徳を損なう」
于志寧は古典の故事を引きながら、歴代の忠臣が節度を持って君を補佐したこと、また非礼な音楽や奢侈がいかに国を乱すかを丁寧に説いた。
さらに、東宮の工事や召使の酷使は民心を損ない、突厥人の招き入れは名声を傷つけると強く訴えた。

しかし李承乾は怒りに駆られ、刺客を送って于志寧の命を奪おうとする。
だがその時、于志寧は母の喪に服しており、筵を敷いた粗末な仮小屋で寝起きしていた。
その様子に胸を打たれた刺客は、ついに刃を下ろせなかった。
やがて李承乾が廃され、太宗はこの一件を知り、于志寧に深く同情し、労いの言葉をかけたのであった。


引用(ふりがな付き)

「克(よ)く儉(けん)を克(おさ)め、用(よう)を節(せっ)すは、実(じつ)に弘(こう)道(どう)の源(みなもと)なり。崇(たか)ぶるに侈(し)を以(も)ってし、恣(ほしいまま)なるは、乃(すなわ)ち敗(はい)徳(とく)の本(もと)なり」
「苦(にが)き言(ことば)を薬石(やくせき)になぞらう」


注釈

  • 太子詹事(たいしせんじ):東宮(皇太子府)の統括官。皇太子の補導と管理を任務とする。
  • 鄭・衛の音(てい・えいのおん):淫靡な音楽の代名詞。古来、風紀を乱すものとされた。
  • 苫廬(せんろ):喪中に建てる簡易の草葺き小屋。礼に則った哀悼の象徴。
  • 張師政・紇干承基(ちょうしせい・こつかんしょうき):李承乾に命じられた刺客。于志寧の誠実な喪中生活を見て暗殺を思いとどまる。
  • 杜漸(とぜん)・防萌(ぼうほう):悪の芽を初期に摘み取ること。古典における統治の基本原則。
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