李百薬は、皇太子の李承乾に対して、深い憂慮と敬意を込めて「賛道の賦」を著した。
その詩賦は、過去の名君と暗愚な世継ぎの対照を描きながら、皇太子に対し正道を歩むよう促す諷刺と訓戒であった。
天命を受けて民を治める者には、並外れた知性と努力、そして道徳が求められる。
地位は先祖から受け継げても、その徳は自らが積み上げなければならない。
昼夜の学びと礼節、民への思いやりを欠けば、その輝きは瞬く間に失われる。
歴史に名を残した名君は、忠孝と仁義を重んじ、師を尊び、道に励み続けた。
一方で、遊興や女色、狩猟や建築、奢侈に溺れた太子たちは、ことごとく国を危うくした。
学びを怠り、耳を貸さず、賢者を遠ざけた者には、必ず報いがある。
李百薬のこの直言は、儒教的倫理の結晶であり、世継ぎとしての皇太子に求められる在り方を明確に示す。
国家の安泰は、君主の徳と慎みによって築かれる。
正しき師に学び、正しき道に従い、身を修めてこそ、天命を継ぐに値する。
引用(ふりがな付き)
生(う)まれながらにして深宮(しんきゅう)に在(あ)り、群后(ぐんこう)の上(うえ)に処(お)り、未(いま)だ王業(おうぎょう)を深(ふか)く思(おも)わず、匕鬯(ひちょう)を自(みずか)ら珍(たっと)ばず。
富貴(ふうき)を自然(しぜん)と謂(い)い、崇高(すうこう)を恃(たの)んで矜(ほこ)る。
必(かなら)ず驕(おご)り狠(にく)むに恣(ほしいまま)にし、礼譲(れいじょう)をもって動(うご)くに愆(あやま)る。
注釈
- 王業(おうぎょう):天命を受け、天下を治めるという政治的使命。
- 匕鬯(ひちょう):祭祀のときに使う香酒。祖先を大切にする心の象徴。
- 崇高(すうこう)を恃(たの)む:高い地位にあることを拠り所として傲慢になる様子。
- 愆(あやま)る:過ちを犯す、間違うこと。
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