—真に国を救うのは、理にかなう「良臣」
魏徴が讒言されたとき、太宗は「嫌疑を受けないよう形に注意せよ」と諭した。これに対して魏徴は、「形(見た目)ではなく、義(正義)に基づくことこそが政治の道」と反論する。そして、「私を忠臣にしないでください。良臣にしてください」と願い出る。
忠臣とは、君に殉じて身を滅ぼし、時には君主をも滅ぼす者。
良臣とは、君主と国をともに輝かせ、家も子孫も栄えさせる者。
太宗はその言葉に深くうなずき、「国を治める正道を忘れぬようにしよう」と誓った。
原文(ふりがな付き引用)
「但(た)だ願(ねが)わくは、陛下(へいか)臣(しん)をして良臣(りょうしん)たらしめ、
臣(しん)をして忠臣(ちゅうしん)たらしむることなかれ」太宗曰(いわ)く、「忠良(ちゅうりょう)異(こと)なるか」
徵曰(こた)えて曰く、「良臣(りょうしん)は身(み)に美名(びめい)を獲(え)、君(きみ)に顕号(けんごう)を受(う)けしむ。
子孫(しそん)世(よ)に伝(つた)え、福禄(ふくろく)無疆(むきょう)なり。
忠臣(ちゅうしん)は身(み)に誅夷(ちゅうい)を受け、君(きみ)を大悪(たいあく)に陥(おと)しいる。
家国(かこく)ともに喪(ほろ)び、独(ひと)り其(そ)の名(な)有(あ)り。
此(こ)れを以(も)って言(い)わば、相去(あいさ)ること遠(とお)し」
注釈
- 形迹(けいせき):外形・振る舞いなど見た目の整い。中身との整合より形式的な「印象」への配慮。
- 良臣(りょうしん):理をもって国を正しく導き、君とともに繁栄を築く臣。
- 忠臣(ちゅうしん):命をかけて諫め、時には滅亡に巻き込まれることすら辞さない臣。
- 義均一体(ぎきんいったい):君と臣が道義によって一体であるという理想的な政治関係。
教訓の核心
- 君主は忠誠の姿勢ではなく、誠実な理と見識による「良き諫言」をこそ求めるべき。
- 忠臣の忠はしばしば悲劇を伴う。国を繁栄に導くのは、義と知による「良」の精神。
- 「見え」ではなく「義」を重んじる政治が、真に安定した統治を築く。
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