草や木が枯れ、葉が落ちたその根元には、すでに新たな芽がそっと顔を出している。
冬の寒さがどれほど厳しくとも、やがて冬至が訪れ、
竹筒に入れた灰が自然と飛び出して「一陽来復(いちようらいふく)」の兆しを告げる。
自然界の厳しさ――冷たくすべてを枯らすような「粛殺」の気配の中にあっても、
その本質は、つねに命を育む「生生(せいせい)」のはたらきを主としている。
これこそが、天地自然の本当の心――
どんな苦難の中にも、希望と再生の芽が絶えず宿っているという、大いなる摂理である。
原文とふりがな付き引用
草木(そうもく)纔(わず)かに零落(れいらく)すれば、便(すなわ)ち萌穎(ほうえい)を根底(こんてい)に露(あら)わす。
時序(じじょ)凝寒(ぎょうかん)と雖(いえど)も、終(つい)に陽気(ようき)を飛灰(ひかい)に回(めぐ)らす。
粛殺(しゅくさつ)の中(なか)に、生生(せいせい)の意(い)、常(つね)に之(これ)が主(しゅ)と為(な)る。
即(すなわ)ち是(これ)以(もっ)て天地(てんち)の心(こころ)を見(み)るべし。
注釈
- 零落(れいらく):草木が枯れ、葉が落ちること。
- 萌穎(ほうえい):草木の芽生え。生命のはじまり。
- 時序凝寒(じじょぎょうかん):四季のめぐりの中でも特に厳しい冬の寒さ。
- 飛灰に回す:冬至に竹筒の中の灰が自然と飛び出す故事。新たな陽気の兆し「一陽来復」の象徴。
- 粛殺(しゅくさつ):草木を枯らす厳しい自然の気配。寒さや冬の静けさ。
- 生生(せいせい):生命が次々と生まれ続けるはたらき。自然の根源的な力。
- 天地の心:自然界そのものの意志。厳しさと優しさを併せ持つ大いなる原理。
1. 原文
草木纔零落、便露萌穎於根底。時序雖凝寒、終回陽氣於飛灰。肅殺之中、生生之意、常為之主。即是可以見天地之心。
2. 書き下し文
草木(そうもく)、纔(わず)かに零落(れいらく)すれば、便(すなわ)ち萌穎(ほうえい)を根底(こんてい)に露(あら)わす。
時序(じじょ)凝寒(ぎょうかん)と雖(いえど)も、終(つい)に陽気(ようき)を飛灰(ひかい)に回(めぐ)らす。
粛殺(しゅくさつ)の中に、生生(せいせい)の意、常に之(これ)が主(しゅ)と為(な)る。
即(すなわ)ち是(こ)れ以(もっ)て天地(てんち)の心(こころ)を見るべし。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 「草木がほんの少し葉を落としはじめると、すぐに地面の下には新しい芽が現れる」
- 「季節がいくら寒く厳しくなろうとも、やがて灰の中から再び陽の気は巡ってくる」
- 「厳しい自然(粛殺)のただなかにも、常に“生まれようとする力”が本質として働いている」
- 「これこそ、天地の心(=宇宙や自然の本質)が見て取れる場面である」
4. 用語解説
- 纔(わず)かに:ほんの少し、始まりかけたばかりの状態。
- 零落(れいらく):草木の葉が落ちること。衰退や滅びの象徴。
- 萌穎(ほうえい):芽や若葉のこと。新しい命の兆し。
- 凝寒(ぎょうかん):厳しい寒さ。物事の停滞、試練、困難の象徴。
- 陽気(ようき):生命力・成長・再生を司るエネルギー。
- 飛灰(ひかい):燃え尽きた灰。終末や絶望の比喩。
- 粛殺(しゅくさつ):万物が枯れ、厳しく静まりかえるさま。冬や死を象徴。
- 生生(せいせい):生まれ続けること。再生・蘇りの力。
- 天地の心:自然・宇宙・神仏の本質や意思。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
草木が枯れて葉を落とし始めるその瞬間には、すでに根元に新しい芽が現れようとしている。
季節がどれほど寒く厳しくても、やがて灰のなかから陽気がめぐり、また春が訪れる。
一見すると死と静けさしかない冬の自然の中にも、絶えず「生きようとする力」が本質として働いている。
このことから、私たちは天地自然がもつ“命を育む心”を感じとることができるのだ。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、自然の観察を通じて得た哲理的な人生観です。
- 絶望的に見える状況にこそ、再生の兆しは宿る
- 死や終わりすらも、次の芽吹きのための準備である
- 天地自然は“生生不息(せいせいふそく)”=常に生み出し続ける原理で動いている
- この「天地の心」に気づける人間は、苦境の中でも希望と学びを見出す智慧者と言える
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅ 「厳しい状況の中にも、必ず“再生の種”がある」
- 売上減、退職、プロジェクトの中止……そうした事態にも次の芽があることを信じる心構えが必要。
✅ 「目に見えない“芽吹き”を見逃すな」
- 成果が見えない時期でも、根の下では確実に成長が進行していることを想定して動くこと。
✅ 「企業や人材にも“萌穎”がある」
- 表面的に衰退しているように見えても、新しい価値・適応力が静かに育ちつつあることがある。育成・再構築の目を持つ。
✅ 「自然の摂理に学ぶマネジメント」
- 急成長だけを求めず、季節のように“休む時・育む時・再生する時”を尊重する組織文化を形成すべき。
8. ビジネス用の心得タイトル
「枯れ葉の下に、芽は宿る──逆境に希望の種を見よ」
この章句は、レジリエンス(回復力)強化研修や、変化・再生・サバイバルをテーマとした経営層向けセッションに活用できます。
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