MENU

精神の感受性を養い、静けさの中に動きを見出す

あたり一面が静まりかえり、すべての音が消えたような寂寥のなかで――
ふと、一羽の鳥の鳴き声を耳にすれば、
その一声だけで、心の奥底から幽玄な趣きが次々と呼び起こされてくる。

また、冬の終わり、ほとんどの草花がしおれ、朽ち果てたあとの景色の中で、
ひと枝だけがすっと伸びて花を咲かせているのを目にすると、
そこに、尽きることのない命の躍動を感じることができる。

これらのことからわかるように、
人間の本性(性天)は、常に枯れ果てているわけではない。
精神のはたらき(機神)を、
自然や出来事に触れさせ、感応させて活発に動かすことこそが、
もっとも望ましい在り方なのだ。

「万籟(ばんらい)寂寥(せきりょう)の中(なか)、忽(たちま)ち一鳥(いっちょう)の弄声(ろうせい)を聞(き)けば、便(すなわ)ち許多(きょた)の幽趣(ゆうしゅ)を喚(よ)び起(お)こす。万卉(ばんき)摧剝(さいはく)の後(のち)、忽ち一枝(いっし)の擢秀(たくしゅう)を見(み)れば、便ち無限(むげん)の生機(せいき)を触(ふ)れ動(うご)かす。見るべし、性天(せいてん)未(いま)だ常(つね)には枯槁(ここう)せず、機神(きしん)最(もっと)も宜(よろ)しく触発(しょくはつ)すべきを。」

感受性を保ち、
沈黙のなかに音を、枯れのなかに芽吹きを見出すこと。
それが、精神を澄ませ、活力に満ちた人生へとつながっていく。


※注:

  • 「万籟(ばんらい)」…自然界のすべての音。風、葉擦れ、水音など。
  • 「弄声(ろうせい)」…鳥の鳴き声。自然に湧き起こる音。
  • 「万卉摧剝(ばんきさいはく)」…すべての草花が枯れしぼむこと。冬の終わりや荒涼とした景色の象徴。
  • 「擢秀(たくしゅう)」…群を抜いて咲く、ひときわ目立つ花の姿。
  • 「生機(せいき)」…生命の働き、生きようとするエネルギー。
  • 「機神(きしん)」…心の機敏さ、精神の活発な働き。外界と感応し、動きを生む力。

原文

萬籟寂寥中、忽聞一鳥弄聲、喚起許多幽趣。
萬卉摧剝後、忽見一枝擢秀、觸動無限生機。
可見、性天未常枯槁、機神最宜觸發。


書き下し文

万籟(ばんらい)寂寥(せきりょう)の中、忽ち一鳥の声を弄するを聞けば、すなわち許多の幽趣(ゆうしゅ)を喚び起こす。
万卉(ばんき)摧剝(さいはく)の後、忽ち一枝の擢秀(たくしゅう)を見るとき、すなわち無限の生機(せいき)を触れ動かす。
見るべし、性天(せいてん)は未だ常に枯槁(ここう)せず、機神(きしん)は最も宜しく触発すべし。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

「すべての音が消えた静寂の中で、ふと一羽の鳥がさえずるのを聞くと」
→ 一切が静まり返った中で、不意に聞こえる鳥の声は、

「多くの幽(かす)かな風情や情緒を呼び覚ます」
→ 隠れていた感性や美的情趣を一気に呼び起こす。

「すべての草花が枯れ剥がれたあと、一本の枝がひときわ美しく伸びているのを見れば」
→ 朽ち果てた風景の中に突如現れる美しさは、

「計り知れない生命の躍動を感じさせる」
→ 大いなる“生”の息吹を実感させる。

「つまり、人の本性(性天)は決して完全に枯れ果てることはなく、」
→ 本来的な命の源は失われておらず、

「その感受性や霊的直感(機神)は、何かのきっかけによってこそ最も力強く目覚める」
→ 小さな出来事が、感性や直観を強く呼び覚ます。


用語解説

  • 万籟(ばんらい):自然界のあらゆる音。風・鳥・虫など万物の声。
  • 寂寥(せきりょう):深い静けさ。人けのない寂しさ。
  • 弄声(ろうせい):声を発して音を楽しむ、さえずる。
  • 幽趣(ゆうしゅ):隠れた趣き、ひそやかな風情。
  • 万卉(ばんき):すべての草花、植物。
  • 摧剝(さいはく):枯れる、削がれる、朽ちる。
  • 擢秀(たくしゅう):抜きんでて美しく咲くこと。
  • 生機(せいき):生命の気配、生きる力の躍動。
  • 性天(せいてん):人の本性、本質的な清らかさ。
  • 枯槁(ここう):枯れてやせ細る。生命力を失うこと。
  • 機神(きしん):直感的なひらめき・霊感・心の働き。

全体の現代語訳(まとめ)

すべての音が消えた静寂の中で、ふと鳥のさえずりが聞こえると、
それだけで多くの幽かな趣が心に浮かんでくる。
あらゆる草花が枯れ落ちたあとに、ひときわ美しい枝を見つけたとき、
限りない生命の力を感じるように、
人の本性は決して完全に枯れることはなく、
その霊感や感受性は、きっかけがあればいかようにも目覚めうる。


解釈と現代的意義

この章句は、**「感性やひらめきは、沈黙や荒廃のなかでこそ芽吹く」**という深い哲理を語っています。

  • 静けさや失意の中にこそ、霊感が目覚める契機がある。
  • 人の心は、完全に枯れることはない。小さなきっかけでよみがえる。
  • 逆境や喪失のあとにこそ、「本物の感性」や「真の創造性」が生まれる。

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

1. 「静寂が感性を研ぎ澄ます」

静かな時間・環境を意識的に持つことで、直感や創造力が蘇る
リーダーやクリエイターにとっての“余白の時間”の価値を強調。

2. 「逆境後にこそ、真の力が現れる」

事業の停滞や失敗後にこそ、人材・組織の“擢秀”が起きる
「何も起きていないように見える時期」も、潜在力を養う重要な時間。

3. 「感性は、些細な“トリガー”によって開花する」

小さなフィードバック、風景、言葉などが、
大きな気づきや発想に火をつける可能性を持つ。
組織は、その“触発”を意識的にデザインすべき。


ビジネス用の心得タイトル

「静寂にこそ芽吹く、感性と創造の芽」


この章句は、「荒廃の中にある美しさ」、「静けさの中に響く命の声」を通して、
人間の本質は常に“生きる力”を秘めていることを示しています。

日常の喧騒や多忙さの中で、あえて“沈黙と触発”を意識することが、
次なる飛躍や再生の鍵になるという示唆がここにあります。


よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次