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執着を捨て、一筋の光を頼りに歩む

もし心の中から、ほんの少しの物欲さえ消え去ったなら――
それはまるで、雪が炉に触れた瞬間に溶け、
氷が陽の光に当たって静かに消えていくように、
すべての執着が自然と溶けてなくなっていく。

そして、目の前に一筋の清らかな光明が差し込めば、
澄んだ夜空に月が浮かび、その月影が水面に映るように、
自分の進むべき本来の姿や在り方が、くっきりと見えてくる。

「胸中(きょうちゅう)既(すで)に半点(はんてん)の物欲(ぶつよく)無(な)ければ、已(すで)に雪(ゆき)の炉焰(ろえん)に消(き)え、氷(こおり)の日に消ゆるが如(ごと)し。眼前(がんぜん)自(おの)ずから一段(いちだん)の空明(くうめい)有(あ)れば、時に月(つき)、青天(せいてん)に在(あ)り、影(かげ)、波(なみ)に在りを見る。」

心を澄ませば、執着は消える。
視界を明るくすれば、進むべき道は見えてくる。
たとえ人生が暗夜のようであっても、
自分だけの「一筋の光」があるなら、それを頼りに進めばいい。


※注:

  • 「半点(はんてん)の物欲」…わずかばかりの物欲のこと。これすらも断ち切ることが理想。
  • 「空明(くうめい)」…心に差し込む清らかで明るい光。一筋の真理の光。
  • 月・波のたとえ…空の月がはっきりと見えるように、またその月が水面にも映るように、心が澄めば本来の自己や道も自然と見える。

※参考的に、佐藤一斎の「一灯を提げて暗夜を行く。暗夜を憂うこと勿かれ。只だ一灯を頼め」(『言志四録』)も、まさにこの「一段の空明」と共鳴する思想と言えるでしょう。

原文

胸中旣無一點物欲、已如雪消於爐焰、氷釋於日光。
眼前自有一段空明、時見月在青天、影在波中。


書き下し文

胸中、既に一点の物欲無くば、已に雪、炉焰に消え、氷、日光に釈(と)くるがごとし。
眼前、自(おの)ずから一段の空明(くうめい)有れば、時に月、青天に在り、影、波中に在るを見ん。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

「心の中に、ほんの少しの物欲もなくなったならば、それはまるで雪が炎で溶け、氷が太陽の光で消えるように、完全に消え去る」
→ 執着が完全に消えると、煩悩は自然と痕跡もなく消え去る。

「そうなれば、目の前には自然と清らかで明るい世界が現れ、時おり、青空に月を見たり、水面に映る月影を見たりできるようになる」
→ 心が澄めば、世界の美しさや真理がはっきりと映し出されるようになる。


用語解説

  • 物欲:物質的な欲望。ここでは“煩悩”や“執着”の象徴。
  • 炉焰(ろえん):炉の炎。雪や氷を瞬時に消し去る強い浄化の象徴。
  • 空明(くうめい):空(から)でありながら澄んで明るいこと。心が澄んで清浄な状態。
  • 月在青天、影在波:真理は隠れずに“天”にも“水”にも明らかに存在しているという比喩。

全体の現代語訳(まとめ)

心に一点の物欲もなければ、それは炎に触れた雪、陽に照らされた氷のように、
欲望は跡形もなく消え去る。
すると、目の前には自然と清澄な世界が広がり、
ときおり、青空に浮かぶ月や、水面に映る月影のように、真理や美が見えてくる。


解釈と現代的意義

この章句は、**「欲望を捨てれば、真理が映る」**という仏教的・禅的核心を非常に美しく語っています。

  • 「物欲」は心の曇りであり、それがある限り、外の世界(=真理・自然)は歪んで映る。
  • しかし、その欲が完全に消えたとき、心はまるで湖面のように静かで、澄んでいて、美を反映する
  • 月やその影は、道理・真理・本質の象徴。つまり、心が澄めば、真理が自然と見えるのです。

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

1. 「執着を手放すと、本質が見える」

売上、評価、地位への執着があると、冷静な判断ができない。
しかし、それらを一度手放してみることで、本当に大事な顧客価値や理念が見えてくる

2. 「感情的判断ではなく、心の明鏡を持つ」

動揺や欲望に支配された状態では、チームの声や市場の変化を正しく受け取れない。
空明な心こそが、最善の意思決定のための鏡である。

3. 「マインドの澄明さは、創造力の源」

澄んだ心は、創造性・直感・構想力の母体となる。
物事を的確に把握し、真の美しさや可能性を見抜く感性は、無欲の精神から生まれる。


ビジネス用の心得タイトル

「心が澄めば、月は浮かぶ──欲なき目に映る真の価値」


この章句は、**“外の世界は、内なる心の写し”**であるという深い智慧を、
詩的かつ静謐な表現で伝えてくれます。

現代のビジネスにおいても、冷静な判断、執着なき行動、澄んだ意識は、
リーダーやクリエイターにとって極めて重要な“本質を映す鏡”となるでしょう。

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