権力者たちは、まるで龍が天に昇るように威勢を誇り、
英雄たちは、虎が荒れ狂うように激しく争い合う。
一見すると壮絶な「龍虎の戦い」のようにも見えるが、
冷静な目で見れば、それはただ――
蟻が生臭いものに群がり、蠅が血に群がっているのと何ら変わらない。
善悪の議論は蜂の大群のように巻き起こり、
利害の争いは蝟(はりねずみ)の毛のように一斉に逆立つ。
しかし、これらも冷静に向き合えば、
ちょうど溶鉱炉で金属を融かすように、
あるいは熱湯が雪を一瞬で溶かすように、
すっきりと処理することができる。
「権貴(けんき)龍驤(りゅうじょう)し、英雄(えいゆう)虎戦(こせん)す。冷眼(れいがん)を以(もっ)て之(これ)を視(み)れば、蟻(あり)の羶(せん)に聚(あつ)まるが如(ごと)く、蠅(はえ)の血(ち)に競(きそ)うが如し。是非(ぜひ)蜂起(ほうき)し、得失(とくしつ)蝟興(いこう)す。冷情(れいじょう)を以て之に当(あ)たれば、冶(や)の金(きん)を化(と)かすが如く、湯(ゆ)の雪(ゆき)を消(け)すが如し。」
大騒ぎに見える争いごとも、一歩引いて冷静に見れば、
取るに足らぬ執着や欲望が渦巻いているに過ぎない。
感情ではなく、理性と静かな心で向き合うことで、
無駄な衝突を避け、物事を円滑に治めることができる。
※注:
- 「権貴(けんき)」…権力や地位を持つ人物たち。
- 「龍驤(りゅうじょう)」…龍が空を駆け上がるように、勢い盛んに振る舞うこと。
- 「羶(せん)」…生臭さ。ここでは欲望や名利の象徴として使われる。
- 「蝟興(いこう)」…蝟(はりねずみ)の毛のように、一斉に逆立ち湧き上がる様子。多数の利害が激しく対立する比喩。
- 「冶の金を化す」…溶鉱炉で金属を溶かして形を整える意。
- 「湯の雪を消す」…熱湯に触れた雪が即座に溶けるように、瞬時に事態が収まる様子。
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