MENU

感情に巻き込まれず、冷静に見つめよ

権力者たちは、まるで龍が天に昇るように威勢を誇り、
英雄たちは、虎が荒れ狂うように激しく争い合う。
一見すると壮絶な「龍虎の戦い」のようにも見えるが、
冷静な目で見れば、それはただ――
蟻が生臭いものに群がり、蠅が血に群がっているのと何ら変わらない。

善悪の議論は蜂の大群のように巻き起こり、
利害の争いは蝟(はりねずみ)の毛のように一斉に逆立つ。
しかし、これらも冷静に向き合えば、
ちょうど溶鉱炉で金属を融かすように、
あるいは熱湯が雪を一瞬で溶かすように、
すっきりと処理することができる。

「権貴(けんき)龍驤(りゅうじょう)し、英雄(えいゆう)虎戦(こせん)す。冷眼(れいがん)を以(もっ)て之(これ)を視(み)れば、蟻(あり)の羶(せん)に聚(あつ)まるが如(ごと)く、蠅(はえ)の血(ち)に競(きそ)うが如し。是非(ぜひ)蜂起(ほうき)し、得失(とくしつ)蝟興(いこう)す。冷情(れいじょう)を以て之に当(あ)たれば、冶(や)の金(きん)を化(と)かすが如く、湯(ゆ)の雪(ゆき)を消(け)すが如し。」

大騒ぎに見える争いごとも、一歩引いて冷静に見れば、
取るに足らぬ執着や欲望が渦巻いているに過ぎない。
感情ではなく、理性と静かな心で向き合うことで、
無駄な衝突を避け、物事を円滑に治めることができる。


※注:

  • 「権貴(けんき)」…権力や地位を持つ人物たち。
  • 「龍驤(りゅうじょう)」…龍が空を駆け上がるように、勢い盛んに振る舞うこと。
  • 「羶(せん)」…生臭さ。ここでは欲望や名利の象徴として使われる。
  • 「蝟興(いこう)」…蝟(はりねずみ)の毛のように、一斉に逆立ち湧き上がる様子。多数の利害が激しく対立する比喩。
  • 「冶の金を化す」…溶鉱炉で金属を溶かして形を整える意。
  • 「湯の雪を消す」…熱湯に触れた雪が即座に溶けるように、瞬時に事態が収まる様子。

原文

權貴驤、英雄虎戰。以冷眼視之、如蟻聚羶、如蠅競血。
是非蜂起、得失蝟興。以冷情當之、如冶金、如湯消雪。


書き下し文

権貴(けんき)龍驤(りゅうじょう)し、英雄虎戦(こせん)す。冷眼(れいがん)を以てこれを視れば、蟻の羶(せん)に集まるがごとく、蠅の血に競うがごとし。
是非(ぜひ)蜂起し、得失(とくしつ)蝟興(いこう)す。冷情(れいじょう)を以てこれに当たれば、冶(や)の金を化するがごとく、湯(ゆ)の雪を消すがごとし。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

「権力者は誇らしげに振る舞い、英雄たちは激しく戦う」
→ 世の中では、地位ある者が威勢を誇り、力ある者が互いにしのぎを削っている。

「しかし、冷静な目で見れば、それは羶(におい)の強い肉に群がる蟻や、血を争って集まる蠅と何ら変わりない」
→ 欲や権力を巡る争いも、実は本能的な欲望に駆られた愚行に過ぎない。

「是非が蜂のように湧き起こり、損得が蝟(はりねずみ)のように次々と持ち上がってくるが」
→ 世間では是非・善悪や損得がせわしなく論じられ続けている。

「それでも冷静な心で対応すれば、それは金を溶かす冶金のごとく、熱湯に雪が溶けるように自然と消えていく」
→ 冷静さを保っていれば、すべての混乱や争いもやがて鎮まり、形を失う。


用語解説

  • 権貴(けんき):権力や富をもつ者たち。
  • 龍驤(りゅうじょう):龍が空を翔けるように勢いよく進むこと。誇らしく、堂々と振る舞うさま。
  • 虎戦(こせん):虎のように激しく戦うこと。英雄たちの激闘を表す。
  • 羶(せん):獣肉の強いにおい。ここでは“強烈な欲望や醜さ”の象徴。
  • 蝟興(いこう):「蝟(はりねずみ)の毛が一斉に逆立つように」次々に物事が沸き起こるさま。
  • 冶金(やきん):金属を熱で溶かして形を変えること。心を鎮め、万物を整える象徴的表現。
  • 湯消雪(とうしょうせつ):熱湯に触れて雪が瞬時に溶けるように、問題がすみやかに解消されるさま。

全体の現代語訳(まとめ)

権力を誇る者たちが勢いよく進み、英雄たちが力を競い合っている。
しかし、冷静な目で見れば、それらはただの欲に駆られた蟻や蠅の群がりに過ぎない。
世の中は是非や損得が次々と湧き起こるが、冷静で落ち着いた心で向き合えば、
それらの喧騒も自然と静まり、やがては何も残らなくなる。


解釈と現代的意義

この章句は、**「世俗の争いを冷眼で見よ」「冷静さこそ最も強い対応である」**という核心を説いています。

  • 社会的に重要そうに見える権力争いや名声の競争も、一歩引いて見れば取るに足らぬ欲望の表れである。
  • 人は「正義」や「成功」「勝利」といった言葉に翻弄されがちだが、それらの多くは一時的なものに過ぎない。
  • 冷眼(理性)と冷情(平常心)を保つ者こそが、真に混乱を鎮め、己を貫ける存在である。

ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

1. 「競争の本質を見誤るな」

価格競争・シェア争い・社内権力闘争など、「熱い戦い」に見えるものでも、
冷静に見ると、実は小さな欲や保身のぶつかり合いでしかないことが多い。

2. 「冷静な判断が、混乱を収束させる」

情報過多・意見の分裂・感情的な対立が続くとき、
一人のリーダーが**“冶金”や“湯消雪”のように静かに整えることができれば、組織は回復する**。

3. 「喧騒に巻き込まれず、構造と本質を見る力を」

騒がしい「是非」や「損得」の中で、動じない判断軸を持つ人材は、
変化の時代において組織の“知恵の柱”になります。


ビジネス用の心得タイトル

「冷眼と冷情で騒動を溶かせ──混乱を鎮める理性の力」


この章句は、「表面的な派手さや騒がしさに惑わされず、静かな心で物事の本質を見る」ことの大切さを、
蟻や蠅、冶金や雪といった詩的な比喩を通じて、深く教えてくれる名言です。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次