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栄華も滅びも移ろうもの ― 永遠ではない

壊れた石畳に狐が眠り、草の生えた荒れた台地を兎が駆けまわる。
そこはかつて、歌や踊りが盛んに行われていた華やかな場所だった。
今はただ、露が野菊に冷たく降り、霧が枯れ草に漂っている――
ここもまた、かつて激しい戦いが繰り広げられた古戦場である。

かつての栄光も、権力も、力の強さも、すべてはやがて消えゆく。
栄枯盛衰に永続はなく、強者も弱者も同じ運命を辿る。
そのことを思うとき、人の心はまるで灰のように冷たく、静まりかえってしまう。

「狐(きつね)は敗砌(はいせい)に眠(ねむ)り、兎(うさぎ)は荒台(こうだい)に走(はし)る。尽(ことごと)く是(こ)れ当年(とうねん)歌舞(かぶ)の地(ち)なり。露(つゆ)は黄花(こうか)に冷(ひや)やかに、煙(けむり)は衰草(すいそう)に迷(まよ)う。悉(ことごと)く旧時(きゅうじ)争戦(そうせん)の場(ば)に属(ぞく)す。盛衰(せいすい)、何(なん)ぞ常(つね)あらん、強弱(きょうじゃく)、安(いず)くにか在(あ)る。此(こ)れを念(おも)えば、人心(じんしん)をして灰(はい)ならしむ。」

どんなに力を誇っても、どれほど栄えようとも、
人の営みはすべて移ろいゆくもの。
だからこそ、驕らず、執着せず、
一瞬一瞬を心静かに受け止めて生きることが大切である。


※注:

  • 「敗砌(はいせい)」…壊れた石畳。かつての栄華が崩れた跡。
  • 「盛衰、何ぞ常あらん」…栄枯盛衰は無常であるという意。『老子』の「物は壮なれば則ち老ゆ(若く強いものもいずれ老いる)」に通じる。
  • 「心をして灰ならしむ」…灰のように静まり返る心境。無常の真理を前にしたときの、悟りにも似た心の冷え。

原文

狐眠敗砌、兎走荒臺、盡是當年歌舞之地。
露冷黃花、煙迷衰草、悉屬舊時爭戰之場。
盛衰何常、強弱安在。念此、令人心灰。


書き下し文

狐は敗砌(はいせい)に眠り、兎は荒台(こうだい)を走る。尽(ことごと)く是(これ)当年の歌舞の地なり。
露は黄花に冷ややかに、煙は衰草に迷う。悉(ことごと)く旧時の争戦の場に属す。
盛衰(せいすい)、何ぞ常あらん。強弱(きょうじゃく)、安(いずく)にか在る。此(これ)を念(おも)えば、人心をして灰(はい)ならしむ。


現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

「狐が荒れた石段に寝そべり、兎が崩れた楼閣を駆け回っているが、そこはかつての華やかな宴の場所だった」
→ 今は野獣が棲む荒れ地でも、昔は音楽と舞踏があふれていた栄華の舞台であった。

「露が冷たく黄花にかかり、煙が立ちこめて枯れた草にからまっているが、そこもかつては戦乱の修羅場だった」
→ どれほど静かで寂しい場所も、かつては血を流し命を賭けて争った激戦の地だった。

「栄枯盛衰は常ならず、強弱の優劣もどこに消えたか分からない。この無常を思えば、人の心は灰のように沈む」
→ あらゆる栄華や強さもすべては過去のもの。無常の理に思い至れば、心は言いようもなく空しくなる。


用語解説

  • 敗砌(はいせい):崩れた石段・階段。栄華の跡。
  • 荒台(こうだい):朽ち果てた楼閣・高台。かつての権力・豪奢の象徴。
  • 黄花(こうか):秋の花。しばしば菊を指す。物寂しさを象徴。
  • 衰草(すいそう):枯れかけた草。時の移ろいと物の哀れ。
  • 盛衰(せいすい):栄えることと衰えること。世の常の移り変わり。
  • 強弱(きょうじゃく):強さと弱さ、勝者と敗者。
  • 心灰(しんかい):心が灰のように沈み、空しくなること。

全体の現代語訳(まとめ)

狐が崩れた石段で眠り、兎が廃れた楼閣を駆け回っているが、そこはかつて歌や踊りでにぎわった華やかな場所だった。
いまや露は黄花に冷たくかかり、煙は枯れ草に迷い混じっているが、そこもかつて命のやり取りがなされた戦場だった。
栄えることも衰えることも、強さも弱さも、永遠に続くものではない。そう思うと、心は空しさで満たされ、灰のように沈んでしまう。


解釈と現代的意義

この章句は、「**無常観(ものごとはすべて変わる)」**を深く突き詰めたものです。

  • かつては栄華を誇った場所も、今では獣が徘徊する荒れ地。
  • 命を賭けた戦場も、やがては草に覆われる。

この世界には「常なるもの」は何一つとしてなく、だからこそ人は、執着や慢心を手放し、謙虚に生きよという教えが込められています。

特に中国古典においては、「盛者必衰」「戦乱と栄華の背中合わせ」といったテーマは、歴史の叡智として繰り返し説かれてきました。


ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

1. 「栄光の持続は幻想。常に変化を前提とせよ」

いま成功している企業・ブランド・ビジネスモデルも、環境の変化や油断によって、一夜にして没落する可能性がある
この章句は、“現状にあぐらをかくな”という経営への戒めになります。

2. 「過去の戦場も、やがては草に覆われる」

あれほど争った競合や、リソースを注ぎ込んだ戦略も、時が経てば“何もなかったかのように”なる
だからこそ、「執着よりも、今を見つめ、未来に柔軟であれ」という教訓を与えます。

3. 「強さは永続しない。だからこそ、謙虚さと見通しを」

強者であってもいつかは衰える。だからこそ、**“退き際の設計”“次世代への継承”“多様性の確保”**が経営上重要です。


ビジネス用の心得タイトル

「盛者も衰える、戦もやがては静まる──無常を見据えて未来を拓け」


この章句は、「力のある者も、栄華を誇った地も、すべてはやがて衰える」という現実を詩的に描きながら、
**“諸行無常”の真理と、そこから生まれる静かな叡智”**を私たちに伝えています。

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