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趣は遠くに求めずとも、身近な静けさに宿る

風雅や趣を感じるために、豪奢な庭園や名勝地を求める必要はない。
お盆のような小さな池、こぶし大の石を並べた庭――そんなつつましい空間にも、霞がたなびくような静かな美しさがある。
遠くの名景を追いかけなくても、よもぎに覆われた窓辺や、竹屋根のあばら家のたたずまいにも、自然の風や月の光がひそかに息づいている。
趣とは「多くを持つ」ことではなく、「あるものの中に見いだす」ことである。
本当の風流は、日々の暮らしのすぐそばに、そっと寄り添っている。


引用(ふりがな付き)

趣(おもむき)を得(え)るは多(おお)きに在(あ)らず、
盆池(ぼんち)・拳石(けんせき)の間(あいだ)にも、煙霞(えんか)は具足(ぐそく)す。
景(けい)に会(あ)うは遠(とお)きに在(あ)らず、
蓬窓(ほうそう)・竹屋(ちくおく)の下(もと)にも、風月(ふうげつ)は自(おの)ずから賖(とお)かなり。


注釈

  • 盆池・拳石:お盆ほどの小さな池や、こぶし大の石を並べた庭。素朴な自然美の象徴。
  • 煙霞(えんか):もややかすみの中にある風景の趣。霞立つ静かな自然の情景。
  • 蓬窓(ほうそう):よもぎが茂る粗末な窓。野趣に富む生活空間。
  • 竹屋(ちくおく):竹で作られた粗末な家。質素ながら風情のある住まい。
  • 賖か(とおかなり):物理的な遠さでなく、「のどかで静かな風情」を含んだ語。趣の深さを表す。

関連思想と補足

  • 「趣」とは客観的な美や規模の大きさによって生まれるものではなく、心の感受性によって感じ取るもの。
  • 茶の湯や枯山水の庭園にも通じる、少ない中に宇宙を見るという日本的美意識を反映。
  • 「足るを知る」や「一隅を照らす」といった思想とも響き合う。
目次

原文:

得趣不在多、盆池拳石閒、煙霞自足。
會景不在遠、蓬窓竹屋下、風月自賖。


書き下し文:

趣(おもむき)を得るは多きに在らず、盆池(ぼんち)・拳石(けんせき)の間にも、煙霞(えんか)自(おの)ずから足(た)る。
景(けい)に会(あ)うは遠きに在らず、蓬窓(ほうそう)・竹屋(ちくおく)の下にも、風月(ふうげつ)自ずから賖(ゆた)かなり。


現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「趣を得るは多きに在らず、盆池・拳石の間にも、煙霞は自ずから足る」
     → 趣というものは、たくさんのものを集めることによって得られるものではない。小さな池や拳ほどの石の間にも、山水画のような美しさは十分にある。
  • 「景に会うは遠きに在らず、蓬窓・竹屋の下にも、風月は自ずから賖かなり」
     → 風景や情趣を味わうために遠くに出かける必要はない。草葺きの窓辺や竹の家のそばにさえ、風や月の美しさは満ちている。

用語解説:

  • 得趣(とくしゅ):趣(風情・おもむき)を感じ取り、味わうこと。
  • 盆池(ぼんち):小さな鉢のような池、ミニチュアの庭園。
  • 拳石(けんせき):拳ほどの小石。わずかな自然物。
  • 煙霞(えんか):山にたなびく霞や雲。風雅な自然の景色。
  • 會景(かいけい):風景と出会い、景趣を味わうこと。
  • 蓬窓(ほうそう):よもぎで覆ったような粗末な窓=簡素な家の象徴。
  • 竹屋(ちくおく):竹でできた質素な家。
  • 賖(ゆたか)なり:豊かである、ゆとりがある。読みは「しゃ」または「ゆたか」と訓む。

全体の現代語訳(まとめ):

趣を感じるのに多くの物や広い空間は必要ない。小さな池や石のある空間にさえ、山や霞のような風情は十分に味わえる。
また、美しい景色を楽しむために遠くへ出かける必要もない。質素な家の窓辺にいても、風や月の美しさは自然に感じ取ることができる。


解釈と現代的意義:

この章句は、**「真の豊かさ・趣は、量や規模ではなく、感じ取る心と視点にある」**ことを教えています。

1. 「ミニマルな美」への賛美

  • 豊かさとは、ものを多く所有することではなく、どんな小さなものの中にも意味と風情を見出す力である。
  • 必要なのは“多さ”ではなく、“感受性”。

2. 日常こそが詩になる

  • 遠くの観光地でしか味わえないと思っている「風情」は、実は日々の暮らしの中にある。
  • 庭の石、朝の光、夕方の風──そこに美しさを見出せるかどうかが、人生の質を決める。

3. 質素な空間と心のゆとり

  • 華美な空間ではなく、粗末な家にいても心が澄んでいれば自然の美を十分に味わえる。
  • これは、簡素な生活や“足るを知る”精神の大切さを表すものでもある。

ビジネスにおける解釈と適用:

1. 「大きなオフィス」や「豪華な制度」が本質ではない

  • 社員の満足や創造性は、物理的な豪華さではなく、日常のちょっとした工夫や人間関係の質によって高まる。
    → 「本質は“小さな豊かさ”の中にある」

2. “遠く”に答えを求めすぎない

  • 「もっとよいアイデア」「もっと高い成長」は、外部の大きな変化ばかりに目を向けるのではなく、今の環境・資源の中に答えを見出すことも大切。
    → 「足元の資源に光を当てよ」

3. “ミニマル”なチームやプロジェクトの可能性

  • 少人数や少資源であっても、心を込めた取り組みには十分な成果と風格が生まれる。
    → 「質素は創造性を磨く土壌」

ビジネス用心得タイトル:

「多を求めず、少に深く──“小さな風景”が真の豊かさを育む」


この章句は、現代の「過剰」「消費」「拡大」といった価値観とは逆を行くように見えて、**“心の自由”と“視点の転換”によって、本当の充足が得られる”**という普遍的な知恵を教えてくれます。

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