**君子(くんし)**とは、外見や言葉でなく、どんな状況でも一貫して節度と品格を保つ人である。
たとえば苦難や災難に遭ったとき、多くの人は取り乱したり嘆いたりするが、君子は冷静さを失わず、平然と状況を受け入れて対処する。その心には、どこか泰然とした落ち着きがある。
一方、宴会や娯楽の場のような「楽しい空気」に流されやすいときにも、君子はむしろ自らを戒め、はめを外さないように心を引き締める。盛り上がりに溺れることなく、内面の慎みを保つ。
また、権力者や有力者に対しても、必要以上にへりくだったり、おじけづいたりしない。君子は地位や権威に動じず、堂々と接する勇気を持っている。
しかし、困窮し孤独に苦しむ者、弱き立場の人に出会ったときは、心から憐れみを覚え、胸を痛める。それが真の仁徳であり、「弱きを助け、強きをくじく」精神そのものでもある。
このように、「どんな場面でどう振る舞うか」によって、その人の人間性と品格が見えてくる。
苦しいときだけでなく、楽しいとき、強い者の前、弱い者の前、それぞれに応じた心の在り方こそが、人の本当の器量を測るものである。
原文と読み下し
君子(くんし)は患難(かんなん)に処(しょ)して憂(うれ)えず、宴遊(えんゆう)に当(あ)たりて惕慮(てきりょ)す。
権豪(けんごう)に遇(あ)いて懼(おそ)れず、惸独(けいどく)に対(たい)して心(こころ)を驚(おどろ)かす。
注釈
- 惕慮(てきりょ):慎重になり、心を引き締めること。浮かれず節度を保つ。
- 惸独(けいどく):「惸」は兄弟のない者、「独」は子のない者。転じて身寄りのない困窮者・社会的弱者を指す。
- 患難に処して憂えず:困難な状況でも動じない精神の強さ。
- 権豪に遇いて懼れず:権力者に対しても萎縮しない正気と胆力。
パーマリンク(英語スラッグ)案
- true-character-in-all-seasons(あらゆる場面でこそ人間性がわかる)
- calm-in-trial-humble-in-joy(苦難に冷静、歓楽に慎み)
- honor-strong-dignify-weak(強者に怯まず、弱者に心を寄せる)
この心得は、現代でも人間関係・組織の中で非常に実践的です。
楽しいときこそ節度を忘れず、強者に対しては恐れず、弱者に対しては心から敬意と慈しみを向けること。
一貫した態度のなかにこそ、人の本当の品格は宿るのです。
1. 原文
君子處患難而不憂、當宴遊而惕慮。
遇權豪而不懼、對惸獨而驚心。
2. 書き下し文
君子(くんし)は患難(かんなん)に処して憂えず、宴遊(えんゆう)に当たりて惕慮(てきりょ)す。
権豪(けんごう)に遇いて懼(おそ)れず、惸独(けいどく)に対して心を驚かす。
3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)
一文目:
君子は困難な状況にあっても、いたずらに心を騒がせない。
→ むしろ冷静に受け止めて、動じない。
しかし、華やかに楽しむ場面では、内心に警戒と慎みの思いを持つ。
→ 油断や浮かれを恐れ、慎重になる。
二文目:
権力者や富豪に出会っても、恐れることはない。
→ 威圧的な存在にも屈しない心を持つ。
しかし、孤独で弱い人に向き合ったときには、かえってその心に深い衝撃と責任を感じる。
→ 他者の孤苦に心を震わせる。
4. 用語解説
- 君子(くんし):徳のある立派な人物。人格と判断に優れた者。
- 患難(かんなん):苦境・困難・災難。
- 宴遊(えんゆう):宴会や遊びごと。享楽の場。
- 惕慮(てきりょ):慎み深く用心すること。警戒心。
- 権豪(けんごう):権力者や財力を持つ者。
- 懼(おそれ)る:畏怖する、ひるむ。
- 惸独(けいどく):孤独な人、助けのない弱者。
- 驚心(きょうしん):心が大きく揺れ動くこと。衝撃を受けること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
君子は、困難や災難に直面しても取り乱さず、心を静かに保つ。一方で、宴会や楽しい時には、かえって気を引き締めて慎みを忘れない。
また、権力者や富豪のような強者に対しても恐れることはないが、孤独で弱い立場の人に出会えば、その姿に心を震わせ、深い憐れみや責任感を感じる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「真の君子は、世間の価値観とは逆の心の構えを持つ」**ことを示しています。
- 困難に対しては冷静、歓楽には警戒
- 強者には平常心、弱者には心の震え
つまり、「危機を恐れず、快楽に浮かれず、強きにへつらわず、弱きに共感する」。この逆説的な姿勢こそが、真に品格ある人物の特徴であると語っています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「困難な時に動じず、成功の時に浮かれず」
経営危機やトラブルに冷静に対応できる者こそ真のリーダー。一方、売上達成や表彰の場では、慢心せず、未来への備えを忘れない。
●「上司・顧客に対してもひるまぬ平常心」
地位や名声に屈しない態度は、独立した思考を保つ強さ。媚びず、堂々と接する人間が、信頼を得る。
●「立場の弱い人へのまなざしに品格が出る」
新人や障害者、非正規職員など、自分より弱い立場の人に対する態度に、その人の真の徳が表れる。感受性と思いやりが組織の文化をつくる。
●「宴席・成功・栄誉こそ“警戒心”を持て」
歓楽の場面は、気が緩みやすい危険地帯。発言やふるまい一つで評価が損なわれる。そこにこそ、慎みと理性が求められる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「困難に冷静、成功に慎み──強きに媚びず、弱きに心震わす君子たれ」
この章句は、リーダーシップ・品格・危機管理・感受性の全てに通じる“逆境と栄誉における心の持ちよう”を教えています。
自己修養だけでなく、マネジメントや組織文化構築の理念にも活かせる指針です。
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