人を用いるときには、あまりにも厳しく冷たい態度をとってはならない。そうした扱いを受ければ、真面目で努力を惜しまない人こそが心を閉ざし、やがて離れてしまう。つまり、厳しさの度が過ぎれば、有能な人材を失うことになるのだ。
また、友人との交際においては、誰とでも無差別に付き合うのではなく、きちんと見極めて交わることが大切である。人を選ばず交際を広げすぎれば、巧言を弄してへつらう者、口先ばかりで信頼に足る言葉を持たぬ者までが寄ってきて、かえって自らの徳を損なうことになる。
孔子も「友を選ぶべし」として、「直き者・誠実な者・よく学ぶ者は益あり」「へつらう者・言葉巧みな者・柔らかすぎる者は害あり」と説いている。さらに吉田松陰も、「師や友を得ることが人を成す」とし、交際の慎重さを説いた。
人との関係は、数ではなく質。よき交わりは、己の器を育て、逆に誤った交わりは、身を損なう毒にもなり得る。
原文と読み下し
人(ひと)を用(もち)うるには、宜(よろ)しく刻(こく)にすべからず。刻なれば則(すなわ)ち効(こう)を思(おも)う者も去(さ)る。
友(とも)に交(まじ)わるには、宜しく濫(らん)にすべからず。濫なれば則ち諛(ゆ)を貢(まつ)る者も来(き)たる。
注釈
- 刻(こく):厳しすぎて心の冷たい様子。人を萎縮させる態度。
- 効を思う者:やる気のある誠実な人物。尽力を惜しまぬ者。
- 濫(らん):みだりに、分け隔てなく誰とでも交わること。
- 諛を貢する(ゆをまつる):へつらい、耳ざわりの良いことばかりを言う者。
- 孔子の教え(論語・季氏第十六):「直きを友とし、諒あるを友とし、多聞を友とするは益なり。便辟を友とし、善柔を友とし、便佞を友とするは損なり」
- 吉田松陰の言葉(士規七則):「徳を成し材を達するには、師恩友益多きに居り。故に君子は交を慎む」
パーマリンク(英語スラッグ)案
- choose-your-friends-wisely(友は賢く選べ)
- no-room-for-flatterers(へつらい者を寄せるな)
- gentle-leadership-wins(厳しさより温かさで人はついてくる)
この心得は、リーダーシップにも人間関係にも直結する実践的な指針です。人の本質を見極め、正しい距離感で関わることが、良縁と成功を引き寄せる鍵となります。
1. 原文
用人、不宜刻。刻則思効者去。
友、不宜濫。濫則貢諛者來。
2. 書き下し文
人を用うるには、宜しく刻(こく)にすべからず。刻なれば則ち効(こう)を思う者も去る。
友に交わるには、宜しく濫(らん)にすべからず。濫なれば則ち諛(ゆ)を貢(たてまつ)る者も来たる。
3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)
一文目:
用人、不宜刻
→ 人を使う(指導・雇用する)ときには、厳しすぎてはいけない。
刻則思効者去
→ あまりにも苛酷に接すれば、真に尽くそうとする者までもが離れていく。
二文目:
友、不宜濫
→ 友を選ぶときには、無差別に誰とでも親しくなるべきではない。
濫則貢諛者來
→ 節度なく交友すれば、へつらって取り入ろうとする者ばかりが集まってくる。
4. 用語解説
- 用人(ようじん):人材の登用や部下の使い方。部下・従業員の管理。
- 刻(こく):厳しすぎること。過度な管理、冷酷さ。
- 思効者(こうをおもわんとするもの):忠誠心を持ち、貢献しようとする人。
- 友(とも):交友・付き合い・交際相手。
- 濫(らん):節度なく無差別に関係を持つこと。
- 貢諛者(ゆをたてまつるもの):お世辞や媚びへつらいを捧げて、利益を得ようとする者。偽りの友。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人を使うときには、あまりにも厳しすぎてはいけない。そうすれば、真面目に尽くそうと思っていた人でさえ、離れていってしまうだろう。
また、友人を選ぶ際には、誰でもかれでも親しくしてはいけない。そうすれば、お世辞を言って自分に取り入ろうとする偽りの友ばかりが集まってくる。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「人との関わりにおけるバランス感覚」**の大切さを説いています。
- 部下や人材に対しては、厳しすぎれば真面目な人材を失い、かえって組織の質が下がる。
- 友人や交友関係においては、無節操に人を受け入れれば、表面的に擦り寄る者ばかりが集まり、真の友情が築けない。
つまり、「節度」と「見極め」が人間関係の質を決めるという普遍的な教訓です。人を信じる心と、見極める目を併せ持つことが、長続きする信頼関係を築く鍵になります。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「マネジメントにおける“厳しすぎ”は逆効果」
厳格すぎる上司は、やる気のある社員まで疲弊させ、優秀な人材流出を招く。「怖い上司」より「信頼できる上司」が、長く成果を上げる。
●「人を動かすのは“信頼と尊重”である」
指示命令だけでなく、感謝や裁量を与えることで、思効者(自発的に貢献したい人)は長く組織にとどまる。
●「交友・人脈も“選ぶ力”が必要」
すべての人と親しくすることが人徳ではない。節度なく誰とでも近づけば、信頼ではなく“利用”の対象とされることも。
●「“お世辞”より“忠言”を受ける器が人間関係を正す」
媚びる者ばかりが集まる環境では、正しい判断や改善の機会を失う。苦言を呈してくれる者こそ、真に価値ある関係者である。
8. ビジネス用の心得タイトル
「厳しさは人を去らせ、甘さは偽りを呼ぶ──“節度ある信頼”が人を育てる」
この章句は、マネジメント・人間関係・組織文化の在り方に対して非常に重要なヒントを与えています。特に“人材育成”や“チームビルディング”に関する施策・研修で応用可能です。
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