他人の悪い評判を聞いたとき、すぐにその人物を嫌うべきではない。それは単に、誰かが私怨や怒りをぶつけたくて流した讒言かもしれない。
また、良い評判を聞いたときも、すぐにその人物を信頼して近づくのは危険である。もしかすると、それは利を求める者が自分を売り込むために仕組んだ言葉かもしれない。
孔子も「多くの人がある人物を憎むときは、それを鵜呑みにせずよく観察せよ。逆に、多くの人が称賛していても、やはり自分でよく確かめよ」と戒めている。
人の評判は主観や思惑が交じるものであり、真実とは限らない。他人の言葉ではなく、自分の目と心で人を見極める姿勢こそ、真に信頼を築く第一歩である。
原文と読み下し
悪(あく)を聞(き)いては、就(すなわ)ち悪(にく)むべからず。恐(おそ)らくは讒夫(ざんぷ)の怒(いか)りを洩(も)らすを為(な)さん。
善(ぜん)を聞いては、急(きゅう)に親(した)しむべからず。恐(おそ)らくは奸人(かんじん)の身(み)を進(すす)むるを引(ひ)かん。
注釈
- 就ち:すぐに。即断・即反応を戒める語。
- 讒夫(ざんぷ):他人を悪く言って貶める人。恨みを晴らすために虚言を弄する者。
- 奸人(かんじん):悪賢く、巧みに人を騙す人物。目的のために善人を装う。
- 孔子の教え(衛霊公第十五):「衆(しゅう)、之(これ)を悪(にく)むは、必(かなら)ず焉(ここ)を察(さっ)し、衆、之を好(この)むも、必ず焉を察す」
→ 評判はあてにならない。信頼や警戒は、自ら確かめたうえで行うべきである。
パーマリンク(英語スラッグ)案
- judge-with-your-own-eyes(自分の目で見極めよ)
- beyond-rumors(噂を越えて)
- truth-over-reputation(評判より真実)
この心得は、現代においてもSNSやレビュー、口コミが氾濫する時代にこそ深く刺さる教訓です。他人の評価を鵜呑みにせず、誠実に自分の判断を養う姿勢が、信頼と判断力の礎となります。
1. 原文
聞惡、不可就惡。爲纔夫洩怒。
聞善、不可遽親。恐引奸人進身。
2. 書き下し文
悪を聞いては、すぐに悪しと決めつけてはならない。恐らくは讒夫(ざんぷ/讒言を吐く人)の怒りを洩らすものであるかもしれぬ。
善を聞いては、すぐに親しんではならない。恐らくは奸人(かんじん/狡猾な人間)が自らの利益のために近づいてきたものかもしれぬ。
3. 現代語訳(逐語・一文ずつ訳)
一文目:
聞惡、不可就惡
→ 他人の悪い評判を聞いても、すぐにその人を悪いと決めつけてはいけない。
爲纔夫洩怒
→ なぜなら、それは一部の者が怒りを晴らすために流した中傷(=私怨)かもしれないからである。
二文目:
聞善、不可遽親
→ 他人についての良い評判を聞いても、すぐに親しくしてはならない。
恐引奸人進身
→ なぜなら、それは狡猾な人物が自分の利益のために近づく策略かもしれないからである。
4. 用語解説
- 就ち(すなわち)/遽(にわかに):即座に、急に、すぐに。
- 就惡(しゅうあく):聞いた話をもとにすぐに悪人と判断すること。
- 纔夫(さいふ):狭量な人・心の狭い者。怒りを抱えて中傷を行う者。
- 洩怒(えつど):怒りを漏らす、中傷することで憂さを晴らす行為。
- 遽親(きょしん):急いで親しくなること。
- 奸人(かんじん):狡猾で裏のある人、奸計を巡らす者。
- 進身(しんしん):自分の地位や立場を高めること、出世・取り入り。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
誰かの悪口を耳にしても、それをすぐに真に受けてその人を非難してはならない。それは、心の狭い者が怒りや私怨を晴らすために言ったことである可能性があるからだ。
また、誰かの良い評判を聞いても、すぐに信用して親しくしてはならない。それは、ずる賢い者があなたに取り入って、自らの利益や出世のために近づいてきたのかもしれない。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「第一印象や噂に左右される危うさ」についての深い警鐘です。
人は情報に触れた瞬間に、感情や印象によって判断しがちです。しかし、耳に入ってくる悪評の背後には、感情的な敵意や妬みが潜んでいることがあるし、逆に好評の裏には、自分に取り入ろうとする意図が隠れているかもしれません。
したがって、本当に人を知るには「情報の出どころ・動機・文脈」を冷静に見極め、すぐに信じず、時間と行動によって人物を判断することが大切だと教えています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
●「噂や評判に振り回されるな」
新入社員や取引先の評価において、「〜らしい」「〜と言っていた」といった二次情報での判断は危険。実際の言動や結果で人を評価すべき。
●「“悪評”には私怨が潜む」
チーム内の不平不満や特定メンバーへの悪口は、個人の感情から来るものかもしれない。マネージャーは裏を読み、全体を俯瞰する視点が必要。
●「“好印象”の裏にある下心を見抜け」
上司や重要人物に急に擦り寄る者、調子のよい発言ばかりする人物には、“裏の目的”があることも。目先の振る舞いより、行動の一貫性を見る。
●「信頼は“ゆっくり”育て、評価は“慎重に”下す」
評価の早さは誤判断を生む。人材育成やパートナーシップでは、「時間」と「行動」で相手の本質を見極めることが成果につながる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「耳にした善悪を鵜呑みにするな──判断は“言葉”より“真意と行動”で」
この章句は、「情報社会の今こそ価値を増す処世の知恵」です。人や情報が錯綜する現代だからこそ、「聞いてすぐに信じない・動じない冷静さ」が、信頼される人・組織づくりの鍵になります。
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