たとえ日が沈み、一日が終わりに近づいても、夕映えの空はなお絢爛たる美しさを放つ。
また、年の瀬が迫って寒さが深まっても、だいだいやみかんなどの柑橘類は、かえってその芳しい香りを強くする。
このように、自然界には「終わり」が「衰え」ではなく、むしろ一層の美しさや充実を見せる時であるという例がある。
だから人間も、歳を重ね、晩年を迎えたからといって沈んではならない。
むしろ君子たる者は、精神を奮い起こし、百倍の気力をもって輝かねばならない。
晩年の生き方は、その人の人格の集大成であり、最後こそが最も美しく、力強くあるべき時なのだ。
原文(ふりがな付き)
「日(ひ)既(すで)に暮(く)れて、而(しか)も猶(なお)烟霞(えんか)絢爛(けんらん)たり。
歳(とし)将(まさ)に晩(おそ)れんとして、而も更(さら)に橙橘(とうきつ)芳馨(ほうけい)たり。
故(ゆえ)に末路(まつろ)晩年(ばんねん)は、君子(くんし)更(さら)に宜(よろ)しく精神(せいしん)百倍(ひゃくばい)すべし。」
注釈
- 烟霞絢爛(えんかけんらん):夕暮れに映える雲や空の華やかな美しさ。
- 橙橘(とうきつ):だいだい、みかんなどの柑橘類。晩年に香りが増すものの象徴。
- 芳馨(ほうけい):豊かで上品な香り。人格や行いが放つ精神的芳香をも象徴する。
- 精神百倍:心を奮い立たせ、通常の何倍もの気力で臨むこと。老いを超える精神力。
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(夕映えもまた栄光)
この条は、「老い」を衰えや終わりではなく、“高まりの時”と見なす叡智を私たちに教えてくれます。
物理的には衰えても、精神は歳とともに熟し、香り立ち、なお人に感動を与える存在になれる――
それが、君子たる者の目指すべき晩年の姿なのです。
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