陰謀や怪しげな習慣に頼ったり、奇妙な行動や人をあざむくような特殊な能力を誇示して、
この世をうまく渡っていこうとすることは、いずれ禍(わざわ)いを招く種となる。
人目を引き、不思議がられるような力や振る舞いに価値があるように思えても、
それらは一時の虚栄や逃避であり、人生を本質から逸らせる危険な誘惑である。
それよりも、たとえ目立たずとも、ごく当たり前の徳と正しい行いを、
一つひとつ積み重ねていくことこそが、人間として本来の姿を成し、
世界の混沌を整え、心と人生に調和と平安をもたらすのである。
孔子もまた、「子、怪・力・乱・神を語らず」と説き、
占いや奇跡に頼らず、まっとうな道徳と実践に生きることを重んじた。
奇抜であることではなく、平凡であることの尊さを、この条は静かに教えてくれる。
原文(ふりがな付き)
「陰謀怪習(いんぼうかいしゅう)、異行奇能(いこうきのう)は、
俱(とも)に是(これ)れ世(よ)を渉(わた)るの禍胎(かたい)なり。
只(ただ)だ一個(いっこ)の庸徳庸行(ようとくようこう)のみ、
便(すなわ)ち以(もっ)て混沌(こんとん)を完(まっと)うして、
和平(わへい)を召(まね)くべし。」
注釈
- 陰謀怪習:人をだます策略や怪しげな習慣・迷信。
- 異行奇能:常軌を逸した行為や不思議な能力。特異な振る舞い。
- 禍胎(かたい):災いのもと。やがて問題を引き起こす根源。
- 庸徳庸行:平凡だが正しい徳と行動。日々のまじめな積み重ね。
- 混沌(こんとん):自然本来の純粋な状態。人間らしいあり方。
- 和平(わへい):穏やかで調和のとれた人生、社会。
パーマリンク候補(英語スラッグ)
avoid-mysticism-embrace-virtue
(まじないより徳を)plain-goodness-over-strangeness
(奇を捨て、正しさを)ordinary-virtue-leads-to-peace
(平凡な徳が平和を招く)
この条は、現代の情報社会やスピリチュアル依存、過度な自己演出に対して、
「地に足をつけて、まっとうに生きよ」という静かな警鐘として響きます。
人は特別であろうとするよりも、「正しくあろうとする」ことにこそ価値があるのです。
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