節義や主義を声高に掲げる人は、その節義によってかえって人に批判されやすい。
学問や道徳を売り物にする人は、むしろその道徳を口実にして責められることが多い。
だからこそ、君子(徳のある人物)は、悪に染まらず、しかし善名を立てようともしない。
ただ、渾然(こんぜん)たる和気――円満で温和な心を保ち、自然体で生きていく。
これこそが、身を守り、心を損なわずに世を生きるための最高の知恵であり、もっとも尊い生き方なのだ。
「正しさ」は時に他人を不安にさせ、傲慢に見せてしまうことがある。
それよりも、主張せずともにじみ出る徳、静かで温かな人柄そのものが、最も強く人を惹きつける力である。
原文(ふりがな付き)
「節義(せつぎ)を標(ひょう)する者(もの)は、必(かなら)ず節義を以(も)って謗(そし)りを受(う)け、
道学(どうがく)を榜(かか)ぐる者(もの)は、常(つね)に道学に因(よ)って尤(とが)めを招(まね)く。
故(ゆえ)に君子(くんし)は悪事(あくじ)に近(ちか)づかず、亦(また)た善名(ぜんめい)を立(た)てず、
只(ただ)だ渾然(こんぜん)たる和気(わき)のみ。纔(わず)かに是(こ)れ身(み)を居(お)くの珍(たから)なり。」
注釈
- 節義(せつぎ)を標する:正しさや道徳を表に出して生きること。
- 道学(どうがく)を榜ぐ:道徳的・学問的に正しいことを看板にする。やや皮肉を込めた表現。
- 善名(ぜんめい):良い評判や名声。
- 渾然(こんぜん)たる和気(わき):すべてを包み込むような円満で和やかな気配。にじみ出る温かみ。
- 珍(たから):最も価値あること。貴重な生き方。
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(静かな徳が最も美しい)don’t-sell-righteousness
(正しさを売りにするな)warmth-over-reputation
(評判より温和な心)
この条は、「目立つ正しさ」は時に攻撃を呼ぶという現実を教えてくれると同時に、
声を張らずとも静かに正しくあることの尊さを伝えてくれます。
それはまさに「無言の徳」、つまり黙っていてもにじみ出る人間力の美学と言えるでしょう。
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