事業も名誉も移ろうが、意気と節操は千年残る。
どれほど偉大な**事業や文章(学問・教養)であっても、
その人の肉体が滅びれば、やがて消え失せる(銷毀)**ものだ。
また、どれほど高い地位や名誉、財産を築いたとしても、
それらは時代の流れとともに他人へと移っていく運命にある。
しかし、気節(きせつ)――つまり意気や節操、精神の高潔さだけは、
たとえ千年が過ぎようとも、一日として色あせることはない。
君子たる者は、
この「移ろうもの」と「永く残るもの」の価値を決して取り違えてはならない。
原文(ふりがな付き)
事業文章(じぎょうぶんしょう)は身(み)に随(したが)って銷毀(しょうき)すれども、精神(せいしん)は万古(ばんこ)に新(あら)たなるが如(ごと)し。功名富貴(こうみょうふうき)は世(よ)を逐(お)うて転移(てんい)すれども、気節(きせつ)は千載(せんざい)に一日(いちじつ)なり。君子(くんし)は信(まこと)に当(まさ)に彼(かれ)を以(もっ)て此(こ)れに易(か)うべからざるなり。
注釈
- 事業・文章(じぎょう・ぶんしょう):生涯をかけた業績や知的活動全般。ここでは「表面的な成果や知識」の総称。
- 銷毀(しょうき):溶けてなくなること。時間とともに風化する様。
- 功名富貴(こうみょうふうき):地位・名誉・財産など、社会的な成功。
- 転移(てんい):他人の手へと移ること。時代や持ち主が変わっていく様。
- 気節(きせつ):精神的な節操。信念・志・高潔さなど。
- 千載に一日(せんざいにいちじつ):たとえ千年の時が過ぎても、変わらぬ一日であるかのように、まったく色褪せないこと。
※吉田松陰は、「一朝の苦を顧みて、遂に千載の図を空しうする勿かれ(千年後に残すべき大志を、今日の小さな苦しみで捨ててはならない)」と述べています。
この条文の思想と全く同じ精神を、日本の志士たちも生きていました。
パーマリンク(英語スラッグ)
spirit-lasts-legacy-fades
(精神は残り、業績は消える)hold-fast-to-integrity
(節操を守り抜け)honor-outlives-achievement
(名誉は業績より永い)
この条文は、「何を人生の核に置くべきか」を問う根源的な教えです。
社会的な成功、知識、財産――
これらは、本人が生きている間には大きな意味を持つように見えても、必ず風化し、移ろいゆくものです。
しかし、その人の意気・精神・節操――つまり、どう生き、どう貫いたかは、
後世に残り、人々の記憶と心に生き続けます。
変わりゆくものに執着せず、変わらぬものを信じて生きる。
それこそが、君子にふさわしい「選び」であり、
現代においても、深い志と誇りを持って生きるための灯火となる教えです。
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