悪事というものは、**人目に触れない「陰」**の中でこそ真価を問われる。
陽(あきらか)な悪事であれば、多くの場合すぐに発覚し、批判を受けて制裁される。
よって、その禍(わざわい)は比較的浅い。
しかし、隠れて行われる陰の悪事は気づかれず、繰り返されるために、
やがて自分や周囲に深い災いをもたらす。
一方で善行もまた、人前で示されるものは小さな効果にとどまりがちである。
それに対して、人知れずひそかに行う善行は、
内に積もる徳を大きく育み、深い報いをもたらす。
つまり、真の悪と真の善は、他人に見えないところでこそ差が出る。
表よりも裏に、声よりも沈黙に、より大きな因果が隠されている。
原文(ふりがな付き)
悪(あく)は陰(いん)を忌(い)み、善(ぜん)は陽(よう)を忌む。故(ゆえ)に悪の顕(あら)われたる者(もの)は、禍(わざわ)い浅(あさ)くして、隠(かく)れたる者は禍い深(ふか)し。善の顕われたる者は功(こう)小(すくな)くして、隠れたる者は功大(おお)なり。
注釈
- 悪は陰を忌む/善は陽を忌む:悪は人目に隠れるところでこそ真に害をなす。善はむしろ人目を避けることでこそ真価を持つ。
- 顕われたる者/隠れたる者:前者は人に見える形の行為、後者は人に知られない、密かな行為。
- 禍浅くして禍深し:目立つ悪事は制裁されやすく、被害も限定的。隠れた悪事は繰り返され、深刻な結果を生む。
- 功(こう):効果、功徳、実質的な成果。
※この思想は、『老子』や仏教における「陰徳積善(いんとくせきぜん)」の教えに通じます。
「徳は声なきところに宿る」「善は黙して行え」という東洋的な倫理観が表れています。
パーマリンク(英語スラッグ)
silent-goodness-deep-impact
(静かな善が大きな効果を生む)hidden-evil-hidden-danger
(隠れた悪は深い禍い)true-merit-is-unseen
(真の功は人に見えない)
この条文は、現代のSNS社会――すべてが「見られる」前提で行動が評価される環境において、
あえて“見られない”ところでこそ人の本質が問われるという、逆説的な真理を語っています。
表の善ではなく、裏の善。罰される悪よりも、気づかれぬ悪。
そこにこそ、私たちが磨くべき人間性の真髄があります。
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