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一番近しい関係こそ、一番深い妬みも生まれやすい

冷静さと平常心が、自分を悩みの闇から救う。

人の態度というものは、貧しい者に対してよりも、
金持ちや権力を持つ者に対してのほうが、温かくも冷たくも変わりやすい。
また、他人に対するねたみやそねみよりも、
親や兄弟など、身近な肉親に対する妬忌の心の方が、はるかに激しいことがある。

こうした人情の機微や感情の起伏に対しては、
**冷静な心(冷腸)**で受け止め、**平常心(平気)**で応じなければならない。

もし感情に振り回されるままに対応していれば、
やがて毎日が小さな怒りや悩みで満ちてしまい、煩悩の障りに包まれてしまうことになる。


原文(ふりがな付き)

炎涼(えんりょう)の態(たい)は、富貴(ふうき)更(さら)に貧賤(ひんせん)よりも甚(はなは)だしく、妬忌(とき)の心(こころ)は、骨肉(こつにく)尤(もっと)も外人(がいじん)よりも很(はげ)し。此(こ)の処(ところ)若(も)し当(あ)たるに冷腸(れいちょう)を以(も)てし、御(ぎょ)するに平気(へいき)を以てせざれば、日に煩悩障(ぼんのうしょう)中(ちゅう)に坐(ざ)せざること鮮(すく)からん。


注釈

  • 炎涼の態(えんりょうのたい):人が状況や相手の身分によって態度を変えること。温かい顔と冷たい顔を使い分ける人情の不安定さ。
  • 富貴更に貧賤よりも甚しく:「金持ち」や「権力者」ほど、その変化が顕著であるという指摘。
  • 妬忌(とき):ねたみやそねみの感情。特に血縁関係の中で生じると、表面化しやすく、深く根を張る。
  • 冷腸(れいちょう):冷静な内面。感情に支配されない、落ち着いた心。
  • 平気(へいき):平常心。動揺せず、平和な気持ちで構えること。
  • 煩悩障(ぼんのうしょう):仏教語で、心を悩ませる無数の欲や怒り。日々の苦しみの元となる内的な障り。

※『論語』は「貧にして怨む無きは難く、富みて驕らざるは易し」(憲問第十四)と述べますが、洪自誠の視点はより実感的・心理的です。近しい者に対する妬みの激しさに注目し、その感情の落とし穴をどう超えるかを説いています。


パーマリンク(英語スラッグ)

  • envy-close-to-home(最も近い者にこそ嫉妬が生まれる)
  • cool-mind-warm-heart(冷静な心、穏やかな応対)
  • rise-above-familial-envy(家族内の嫉妬を超えていく)

この条文は、**「家族だからこそ傷つけあいやすい」**という、人間関係の難しさを見事に言い当てています。
本来最も愛し合うべき肉親同士でも、比較・期待・利害があると、妬みや苛立ちに変わってしまうことがあるのです。

そうした感情に巻き込まれずに生きるには、
**冷静な観察力と穏やかな受け止め方(冷腸と平気)**を持つこと――
それが、自分自身を煩悩から守る最良の智慧だと教えてくれます。

目次

1. 原文

炎涼之態、富貴更甚於賤。
妬忌之心、骨肉尤很於外人。
此處若不當以冷腸、御以平氣、鮮不日坐煩惱障中矣。


2. 書き下し文

炎涼の態は、富貴さらに貧賤よりも甚だしく、
妬忌の心は、骨肉にして外人よりも尤も很(はなは)だし。
この処、もし冷腸を以て当たり、平気を以て御せざれば、
日に煩悩障の中に坐せざること鮮し。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)

  • 人の情の冷たさ・温かさの移り変わり(炎涼の態)は、富貴の者のほうが貧しい者よりもむしろ激しい。
  • また、嫉妬や妬みの心は、他人よりもむしろ身内の間において深刻である。
  • こうした状況に直面したとき、冷静な心(冷腸)で接し、穏やかな気持ち(平気)で受け止めなければ、
  • たちまち煩悩や心の障りの中に落ちてしまうだろう。

4. 用語解説

  • 炎涼の態:人の情が熱くなったり冷たくなったりすること。特に状況・利益で変わる態度。
  • 富貴:権力・地位・財産などを持つ人。
  • 貧賤:貧しく地位の低い人。
  • 妬忌(とき):妬みや嫉妬の感情。
  • 骨肉:親兄弟・親族など身内の関係。
  • 外人:他人。
  • 冷腸:冷静な心、冷たいほどに感情に振り回されない精神。
  • 平気:動じない、穏やかな気持ち。
  • 煩惱障(ぼんのうしょう):心の悩み・執着・苦しみを生む原因。仏教語。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

人の情が熱くなったり冷たくなったりする態度は、
意外にも富んだ人々のほうが貧しい人々よりも激しいものである。
また、妬みや嫉妬の心は、他人よりも身内の間でこそ強く現れるものだ。
こうした状況に際して冷静さと平常心で対応できなければ、
すぐに心の悩みや煩悩に囚われてしまうことになる。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、「人間関係における期待と裏切り、身内からの嫉妬」にどう向き合うかを説いた教えです。

  • 人は利害で態度を変える存在である
     → 富貴になれば、人の冷淡さをより強く感じる場面が増える。
  • 妬みは、他人よりも身内から起こる
     → 身近な人間関係ほど、比較や執着が生まれやすく、裏切りも痛みも深くなる。
  • だからこそ、内面の冷静さと穏やかさが必要
     → 心を保てなければ、外の関係によって自分自身が壊れてしまう。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 「成功の裏には、人の変化と嫉妬が潜む」

  • 昇進・起業・表彰──
     栄誉ある瞬間ほど、周囲の態度が変わり、身内の嫉妬を招きやすい。

→ 人間関係の温度差に動揺せず、冷静に受け止める覚悟と観察力が必要


● 「身内からの足の引っ張りに耐える力」

  • チーム内、創業メンバー、家族経営など「近しい存在」ほど、
     役割や評価による衝突・嫉妬・距離の変化が起きやすい。

→ 期待を手放し、“感情ではなく事実”に基づいて対応する心の整理が必要


● 「感情に反応せず、原理で動く姿勢が“煩悩障”を防ぐ」

  • 人の言動に一喜一憂していると、自己肯定感が他人に依存し、
     日々ストレスや不安の障壁に囲まれる。

→ 価値観や判断軸を自己の内側に確立することで、心が守られる。


8. ビジネス用の心得タイトル

「嫉妬も裏切りも織り込み済み──“冷静と平気”が心の鎧となる」


この章句は、人間関係の変化に振り回されるなという深い人生訓です。
特に富や名誉を得る立場に立つとき、身近な者の変化や嫉妬によって心を乱されないために、
冷静さと動じぬ精神を日頃から鍛えることが、真に安定した人格を育む礎となるのです。

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