たとえ相手が善人であっても、
まだ深い信頼関係が築けていないうちは、うかつにほめるべきではない。
なぜなら、それを妬む者や悪意ある第三者が、仲を裂こうと告げ口や中傷をしてくる恐れがあるからである。
また、相手が悪人であっても、
まだ完全に関係を断ち切っていないうちは、早まって悪口を言ってはならない。
なぜなら、相手が逆恨みしてワナを仕掛け、報復してくる危険があるからである。
口に出すことは、剣にも橋にもなる。
その人を信じるに足るかどうか、関係の成熟度を見極めてから、
ほめることも批判することもすべきである。
原文(ふりがな付き)
善人(ぜんにん)、未(いま)だ急(きゅう)に親(した)しむこと能(あた)わざれば、宜(よろ)しく預(あらかじ)め揚(あ)ぐべからず。恐(おそ)らくは讒譖(ざんげん)の奸(かん)を来(きた)さん。悪人(あくにん)、未だ軽(かる)しく去(さ)ること能わざれば、宜しく先(ま)ず発(はっ)すべからず。恐らくは媒孽(ばいげつ)の禍(わざわい)いを招(まね)かん。
注釈
- 預め揚ぐ(あらかじめあぐ):関係が浅いうちに、前もって相手をほめてしまうこと。早まった称賛。
- 讒譖の奸(ざんげんのかん):陰口・中傷・告げ口をする悪意ある人物。特に人間関係を引き裂く行動をとる者。
- 先ず発す(まずはっす):先に批判したり、悪口を言ったりすること。
- 媒孽の禍(ばいげつのわざわい):悪人の報復、罠や陥れ。裏で策略をしかけて害を与えること。
※これは単に「口は災いの元」と言うよりも深い内容であり、対人関係の段階と空気を読む慎重さを教えています。
『論語』の「言多くして、窮す」(話しすぎると窮地に立つ)という言葉とも共鳴しています。
パーマリンク(英語スラッグ)
praise-with-care-criticize-with-wisdom
(ほめるにも、批判にも賢さを)words-can-wound-or-win
(言葉は傷にも絆にもなる)timing-makes-trust
(信頼はタイミングで決まる)
この条文は、現代のビジネス・人間関係・SNS時代にも通じる、言葉の扱いにおける成熟した感覚を説いています。
相手が善人でも、時期尚早な親しみの表現は妬みや誤解を生む。
相手が悪人でも、未然に敵意を見せれば、予防どころか危機を招く。
その場の感情ではなく、「時と場と相手」に応じた慎重な言動――
それこそが、真の思慮深さと人間力の証です。
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