大金を与えても、その場の感謝すら得られないことがある。
一方で、たった一度のささやかな施しが、一生心に残る恩となることもある。
つまり、思いの重さや与える量が、そのまま相手の心に響くとは限らない。
愛情が重すぎると、かえって相手に負担や反発を与え、仇となることもある。
逆に、ほんの少しの親切であっても、心に寄り添うものであれば、深い喜びをもたらすことがある。
与えることの本質は、量ではなく「心の調和」と「間の良さ」にある。
原文(ふりがな付き)
千金(せんきん)も一時(いちじ)の歓(よろこ)びを結(むす)び難(がた)く、一飯(いっぱん)も竟(つい)に終身(しゅうしん)の感(かん)を致(いた)す。蓋(けだ)し愛(あい)重(おも)ければ反(かえ)って仇(あだ)と為(な)り、薄(うす)きこと極(きわ)まりて翻(ひるがえ)って喜(よろこ)びを成(な)すなり。
注釈
- 千金:非常に大きな財物や厚い施し。
- 一飯:ごくわずかな物。ここでは一膳の食事という比喩。
- 一時の歓(よろこび):その場限りの喜びや感謝。
- 竟に(ついに):思いがけず。案外と。
- 愛重ければ仇となる:与えすぎると、相手に負担をかけたり、義務感を持たせてしまい、感謝より反発を生むことがある。
- 薄極まりて喜びを成す:与えたものは小さくとも、相手の心にぴたりと響けば、感謝は深くなるという意味。
※この条文は、同じく「恩と仇の均衡」を説いた【第108条】とも通じます。愛は量でなく、心の繊細な扱い方が重要であるという教えです。
パーマリンク(英語スラッグ)
heavy-gift-light-gratitude
(重き施しに薄き感謝)light-touch-deep-impact
(軽やかな施しが心に残る)give-with-care
(与えるときは、心と調和を)
この条文は、「思いやり」や「親切」の難しさと深さを静かに教えてくれます。
たくさん与えることが常に善ではなく、その人に合ったかたちで、さりげなく心に響く与え方が、もっとも尊いのです。
1. 原文
千金難結一時之歡、一飯竟致終身之感。
蓋愛重反爲仇、薄極反爲喜也。
2. 書き下し文
千金も一時の歓を結ぶは難く、一飯もついに終身の感を致す。
蓋(けだ)し愛重ければ反って仇となり、薄きこと極まれば反って喜びとなるなり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ)
- 千金も一時の歓を結ぶは難く
→ どれほど多くの金を使っても、一時の喜びや心をつなぐことは難しい。 - 一飯もついに終身の感を致す
→ たった一杯の食事でも、心のこもったものであれば、一生忘れられない感謝を生むことがある。 - 蓋し愛重ければ反って仇となり
→ 愛情があまりにも重すぎると、かえって憎しみに変わることもある。 - 薄きこと極まれば反って喜びとなるなり
→ 一見冷たく感じる関係でも、それが極まればかえって喜びを生むこともある。
4. 用語解説
- 千金(せんきん):非常に多額の金銭。
- 一飯(いっぱん):一度の食事。ここでは「小さな施し」「ささやかな心遣い」の象徴。
- 竟(つい)に:最終的に、結果として。
- 蓋し(けだし):いわゆる、思うに。古典的な断定・説明の語。
- 愛重(あいおも)ければ反って仇となる:過剰な愛情が相手にとって重荷・束縛になり、敵意を生む可能性。
- 薄極(はくきわま)れば反って喜びを成す:冷淡な関係が極まると、かえってありがたさや喜びをもたらすことがあるという逆説。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
どんなに多額の金を費やしても、人の心をつなぎ止めることは難しい。
けれども、たった一杯の食事であっても、真心がこもっていれば、一生忘れ得ぬ感謝を生むことがある。
そもそも、愛情が重すぎると、かえって相手を苦しめ恨みを買い、
逆に冷たいように見える接し方でも、かえって相手の喜びとなることもある。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「真心と節度ある愛情が信頼を生む」**という逆説的な人間関係論を提示しています。
- 多くの金や物で得ようとする好意は、薄くて壊れやすい。
- 小さな行為でも、真実の思いがあれば、深い信頼を得ることができる。
- 愛情や配慮は、多ければよいとは限らず、相手にとって“重すぎる善意”は仇にもなりうる。
- 一見素っ気ない対応でも、かえって相手の自立を尊重し、感謝を呼ぶこともある。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
● 「高額なギフトより、心ある一言が関係を築く」
クライアントや顧客との関係性は、金額の大きさよりも、タイミングと心遣いの質が影響する。
一度のメール、一杯のコーヒーが、深い信頼のきっかけになることもある。
● 「過剰な配慮や“押しつけ”は、信頼を壊す」
部下への過干渉、顧客への過剰サービス、家族のような密なケア──
それが“ありがた迷惑”になれば、かえって反発や疲弊を生む。
節度をもって相手に寄り添う姿勢が、信頼につながる。
● 「真心とは“質と分量のバランス”」
善意の表現には、内容だけでなく、タイミングや分量も重要。
見返りを求めず、さりげなく差し出されるものにこそ、深い感謝が生まれる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「真心は金額で測れず、善意は節度によって価値を持つ」
この章句は、人間関係やビジネスの場で「与える」「支える」行為の本質を深く見つめ直すものです。
誠実さと節度──この2つを備えてこそ、人の信頼と感謝を本当に得ることができます。
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