あっさりと飾り気のない「澹白(たんぱく)」な人は、
派手でしつこい「濃艶(のうえん)」な人からすれば、
何を考えているかわからず、かえって疑いの目を向けられることがある。
また、真面目で厳格な「検飭(けんちょく)」な人は、
だらしなく自由奔放な人からすれば、
堅苦しく、煙たがられることもある。
しかし、だからといって、君子(くんし)は
自分の正しいと信じる生き方(操履)を変える必要はない。
ただし、それをあからさまに表に出しすぎて、
他人を牽制したり、不快にさせたりするのは控えるべきである。
正しく生きることと、他人に正しさを押しつけることは違う。
人は人、自分は自分。
調和しながらも自分の道を歩む姿勢が、成熟した君子の姿である。
原文とふりがな付き引用
澹白(たんぱく)の士(し)は、必(かなら)ず濃艶(のうえん)なる者(もの)の疑(うたが)う所と為(な)り、
検飭(けんちょく)の人(ひと)は、多(おお)くは放肆(ほうし)なる者の忌(い)む所と為る。
君子(くんし)は此(こ)れに処(しょ)して、固(もと)より少(すこ)しも其(そ)の操履(そうり)を変(か)ずべからず、
亦(また)太(はなは)だ其の鋒芒(ほうぼう)を露(あら)わすべからず。
注釈(簡潔に)
- 澹白(たんぱく):あっさりして飾り気のない人。質素な人格。
- 濃艶(のうえん):派手で情熱的な性格。俗っぽく、しつこい気質。
- 検飭(けんちょく):律儀で真面目な人。節度を守る。
- 放肆(ほうし):放漫で無節操なふるまいをする人。
- 操履(そうり):道徳的に正しい行動、生き方。
- 鋒芒(ほうぼう):刃の先。ここでは、自分の主張・生き方をあらわにすることの比喩。
パーマリンク案(英語スラッグ)
walk-your-path-without-pushing-it
「自分の道を歩んでも、押しつけてはならない」という主旨を端的に表したスラッグです。
その他の案:
- quiet-integrity-is-best
- live-true-but-humble
- conviction-without-imposition
この章は、「正しい生き方とは何か」を再考させるだけでなく、
その正しさをどう扱うかという“慎みの徳”を教えています。
人それぞれに価値観や性格があるなかで、
君子に求められるのは、他者を非難せず、自らを曲げずに静かに貫く姿です。
『論語』の「君子は和して同ぜず」——すなわち、
調和を保ちながらも迎合しない姿勢と深く通じています。
1. 原文
澹泊之士、必爲濃艷者所疑。檢飭之人、多爲放肆者所忌。君子處此、固不可少變其操履、亦不可太露其鋒芒。
2. 書き下し文
澹泊(たんぱく)の士は、必ず濃艶(のうえん)なる者の疑う所と為り、
検飭(けんちょく)の人は、多く放肆(ほうし)なる者の忌む所と為る。
君子、此に処して、固より其の操履(そうり)を少しも変ずべからず、
亦た其の鋒芒(ほうぼう)を太(はなは)だしく露わすべからず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 澹泊之士、必爲濃艷者所疑。
→ 淡泊で質素な人物は、派手で華やかな者からはかえって疑いの目を向けられやすい。 - 檢飭之人、多爲放肆者所忌。
→ 厳しく自己を律する人物は、奔放で自制心に欠けた人々から嫌われがちである。 - 君子處此、固不可少變其操履、亦不可太露其鋒芒。
→ 君子(立派な人物)は、このような環境にあっても決して自らの節操を変えてはならないが、同時にその鋭さをあまり露わにしすぎてもいけない。
4. 用語解説
- 澹泊(たんぱく):欲望が少なく、質素で慎ましい性質。
- 濃艶(のうえん):華美で装飾的な性質や人物。対照的な性格を指す。
- 検飭(けんちょく):品行を正しく保ち、自らを律すること。
- 放肆(ほうし):勝手気ままで、自由奔放なふるまい。
- 操履(そうり):信念や節操、品位のある行動様式。
- 鋒芒(ほうぼう):剣の切っ先。転じて、才能・主張などの際立った部分や鋭さ。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
淡泊で質素な人物は、派手で華やかな性格の人から不信感を持たれやすく、
厳格で自律的な人は、奔放で自由な人たちにとっては煙たがられるものである。
だからといって、君子たる者はそうした状況に流されて、自らの節操を曲げてはならない。
しかし同時に、自らの信念や能力をあまりにも露骨に表に出すのも慎むべきである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「正しい人ほど、周囲に誤解されやすい」**という現実と、
それにどう向き合うべきかの態度を教えてくれます。
- 「誠実・真面目・質素・正直」な人ほど浮いてしまうことがある。
- しかし、その違和感に合わせて節操を曲げるのは、本末転倒。
- 同時に、その誠実さや才覚を“ひけらかす”と、敵を作りやすい。だから、”目立たず、しかし曲げず”のバランスが重要だと説いています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 誠実でまじめな社員ほど、周囲に“煙たがられる”リスクがある
- 真面目な人が、不正やごまかしを見抜いたり、無駄に気づいたりすると、
変化を望まない組織や上司から疎まれることも。
▪ それでも、節を曲げるな──信念を保つことが信頼に変わる
- 組織の中で目立つ必要はないが、芯をもって働く姿勢は、やがて信頼と評価を得る。
- 信念を静かに貫く姿勢が、他人の心を動かす原動力になる。
▪ 「言い過ぎない」「出過ぎない」慎みのバランスが重要
- 能力や正義を主張しすぎると「敵」や「嫉妬」を呼びやすい。
- 「見せすぎず、隠しすぎず」の中庸こそ、君子の智慧。
8. ビジネス用の心得タイトル
「信念は貫き、矛は収めよ──節を保ち、鋒を隠す君子の処世術」
この章句は、「よく生きようとする者」が直面する現実と、
その中でどう誠実さと慎みを両立させるかという、極めて実践的な処世訓です。
- 品行方正な人は、疑われ、疎まれやすい。
- それでも節を曲げず、しかし敵を作らない。
- “目立たぬ誠実”が、長く続く信頼と実力の証明になる。
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