私たちが今日この瞬間に享受している生活の恩恵は、
すべて過去の人々――祖先たちの積み重ねた努力と徳のたまものである。
だからこそ、今ある恵みの背景には、
長い年月をかけて築き上げてくれた苦労と真心があることを思い、
感謝の心を忘れてはならない。
では、これからの時代に生きる子孫たちが受ける幸福とは何だろうか。
それは、まさにいま私たちが努力して残していくものによって決まる。
しかし、それらは築くのは難しくても、壊れるのはたやすい。
だからこそ、受け継いだものを大切にし、
次代へとしっかり引き渡す責任を忘れてはならない。
原文とふりがな付き引用
祖宗(そそう)の徳沢(とくたく)を問(と)わば、吾(わ)が身(み)の享(う)くる所(ところ)のもの是(これ)なり。
当(まさ)に其(そ)の積累(せきるい)の難(かた)きを念(おも)うべし。
子孫(しそん)の福祉(ふくし)を問わば、吾が身の貽(のこ)す所のもの是れなり。
其の傾覆(けいふく)の易(やす)きを思うを要(よう)す。
注釈(簡潔に)
- 祖宗(そそう):祖先。自分たちのルーツ。
- 徳沢(とくたく):恩恵。積み重ねて与えてくれた善行の結果。
- 享く(う):享受する。恩恵を受ける。
- 積累の難き(せきるいのかたき):長い時間と苦労の積み重ねの尊さ。
- 貽す(のこす):後の世に残す。伝える。
- 傾覆の易き(けいふくのやすき):崩れるのは一瞬であること。
パーマリンク案(英語スラッグ)
honor-past-build-for-future
「過去に感謝し、未来を築く」というメッセージを端的に表現したスラッグです。
その他の案:
- gratitude-and-legacy
- inherit-and-preserve
- roots-and-responsibility
この章は、「今の私たちは何によって成り立っているか」「未来に何を残すべきか」という、
時間を超えた人間の責任について教えてくれます。
今享受しているものを当然と思わず、
受けた恩を感謝し、未来へつなぐ自覚を持つ——
この連鎖こそが、個人を超えた文化・社会・国の礎であり、
まさに「積善の家に必ず余慶あり」という、持続可能な徳の循環をつくるものです。
1. 原文
問祖宗之德澤、吾身所享者是。當念其積累之難。問子孫之福祉、吾身所貽者是。須思其傾覆之易。
2. 書き下し文
祖宗(そそう)の徳沢(とくたく)を問わば、吾が身の享(う)くる所のもの是れなり。
当に其の積累(せきるい)の難きを念うべし。
子孫の福祉を問わば、吾が身の貽(のこ)す所のもの是れなり。
須らく其の傾覆(けいふく)の易きことを思うべし。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 問祖宗之德澤、吾身所享者是。
→ 祖先の徳の恩恵を問うならば、今の自分が享受しているこれこそが、それである。 - 當念其積累之難。
→ その徳が積み重ねられた過程の困難さを思い起こさねばならない。 - 問子孫之福祉、吾身所貽者是。
→ 子孫の幸福について問うならば、それは自分が残すべきものである。 - 須思其傾覆之易。
→ その幸福が崩れ去るのは容易であることを、常に心に留めておく必要がある。
4. 用語解説
- 祖宗(そそう):祖先、先祖。
- 德澤(とくたく):徳の恩恵。徳により生じた恩恵・福。
- 享(う)くる:享受する、受け取る。
- 積累(せきるい):長い時間をかけて積み重ねたもの。
- 貽(のこす):後に遺す、残す。
- 福祉(ふくし):幸福と恩恵。
- 傾覆(けいふく):崩れ去ること、転覆すること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
祖先からの徳の恩恵について問うならば、今の自分が受けている幸福こそが、それに他ならない。
その徳が積み重ねられた過程の困難さをよく思い起こすべきである。
そして、子孫に与えるべき福祉を問うならば、それは自分がいま遺していくものである。
その福祉があっという間に失われてしまうかもしれないことを、常に意識しておくべきである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「感謝と責任の心」**を説いたものであり、過去・現在・未来のつながりを自覚する重要性を示しています。
- 今ある恩恵は祖先の努力の結晶であり、それを当然と思ってはならない。
- 同時に、子孫に渡すものは、今の自分の行いにかかっており、責任ある振る舞いが求められる。
- 福を築くのは困難である一方、壊すのは一瞬であるという戒めも含まれています。
このように、**「受け継ぐ者としての謙虚さ」「残す者としての自覚」**が強調されています。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 企業が築いた信用・ブランドは、先人の努力の成果
- 今ある会社の地位、顧客からの信頼、業界内での評価──それらは全て「積み重ね」の成果。
- それを当然とせず、「この信用を築くのにどれほどの時間と努力があったか」を常に思い起こすことが必要。
▪ 後継者・次世代に何を残すか、自覚せよ
- 子や部下、次の経営陣に残す資産は、「金」や「物」だけでなく、文化・信頼・組織力など無形の財産。
- それは築くのに年月がかかるが、乱れた行動で一瞬にして崩壊することもある。
▪ サステナビリティ(持続可能性)とは、過去と未来のつながりの中で現在を律すること
- 先人への感謝、後人への責任、この両者を意識することで、健全で長期的な経営判断が可能となる。
8. ビジネス用の心得タイトル
「今ある恩恵は“預かりもの”──築くは難し、壊すは一瞬」
この章句は、東洋的な「報恩」と「継承の倫理」を説いたものであり、
現代のビジネス・社会リーダーにこそ必要な視点です。
自分が何かを「享受している」ならば、その背後には見えない努力の積み重ねがあることを思い、
何かを「残す立場」になったなら、それを軽々しく失わせないよう、自らを律して行動する──
これが持続可能な信頼・資産・価値の継承の要諦といえるでしょう。
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