理想は、高く広く掲げるべきものである。
しかし、その理想があまりにも現実からかけ離れてしまっては、ただの夢想家になってしまう。
思考は、丁寧で緻密であることが必要である。
けれども、細部にとらわれすぎて、物事の本質を見失っては本末転倒だ。
趣味や教養は、あっさりとした心持ちで楽しむべきだ。
しかし、それが極端に片寄って無味乾燥になってしまえば、かえって心の豊かさを失ってしまう。
節操(=志・信念)は、厳しく明確に守ることが重要だ。
だが、それが激しすぎて他人を責めるようなものになってしまえば、それは道を誤ってしまう。
このように、理想と現実、思索と実践、自由と秩序の間に立ち、
バランスをとることこそが、君子の器量であり、生き方の洗練である。
原文とふりがな付き引用
気象(きしょう)は高曠(こうこう)を要(よう)して、而(しか)も疎狂(そこう)なるべからず。
心思(しんし)は縝密(しんみつ)を要して、而も瑣屑(させつ)なるべからず。
趣味(しゅみ)は沖淡(ちゅうたん)を要して、而も偏枯(へんこ)なるべからず。
操守(そうしゅ)は厳明(げんめい)を要して、而も激烈(げきれつ)なるべからず。
注釈(簡潔に)
- 高曠(こうこう):高く広い志や理想。器の大きさ。
- 疎狂(そこう):現実から離れすぎた風変わりさ。夢見がち・奇抜。
- 縝密(しんみつ):細かく丁寧で、整った思考。熟慮。
- 瑣屑(させつ):細部への過度な執着。こだわりすぎて本質を見失う。
- 沖淡(ちゅうたん):あっさり、飄々とした趣味や態度。執着しない美。
- 偏枯(へんこ):極端に偏って乾いてしまうこと。趣味や感性の狭まり。
- 操守(そうしゅ):節操・信念・守るべき道。
- 激烈(げきれつ):激しすぎる態度や行動。極端な厳格さ。
パーマリンク案(英語スラッグ)
balance-ideal-and-reality
「理想と現実のバランスをとる」という本条の主旨をそのまま表したスラッグです。
その他の案:
- moderation-is-mastery
- extremes-break-character
- grace-in-tempered-virtue
この章は、人生において最も難しく、同時に最も洗練された力である「バランス感覚」の重要性を説いています。
極端に走らず、中庸を美とする姿勢は、東洋思想における徳の根幹でもあります。
1. 原文
氣象高曠、而不可疎狂。心思縝密、而不可瑣屑。趣味沖淡、而不可偏枯。操守嚴明、而不可激烈。
2. 書き下し文
気象(きしょう)は高曠(こうこう)を要して、而(しか)も疎狂(そこう)なるべからず。
心思(しんし)は縝密(しんみつ)を要して、而も瑣屑(させつ)なるべからず。
趣味(しゅみ)は沖淡(ちゅうたん)を要して、而も偏枯(へんこ)なるべからず。
操守(そうしゅ)は厳明(げんめい)を要して、而も激烈(げきれつ)なるべからず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 氣象高曠、而不可疎狂。
→ 人柄や雰囲気は広く高く、堂々としているべきだが、同時にだらしなく奔放すぎてはいけない。 - 心思縝密、而不可瑣屑。
→ 思考は緻密で細やかであるべきだが、あまりにも細かすぎて卑小になってはいけない。 - 趣味沖淡、而不可偏枯。
→ 趣味や嗜好は淡泊で品があるのがよいが、無味乾燥で偏っていてはいけない。 - 操守嚴明、而不可激烈。
→ 信念や節操は厳格かつ明快であるべきだが、過激になりすぎてはいけない。
4. 用語解説
- 氣象(きしょう):人柄・態度・ふるまいの雰囲気、スケール感のある精神状態。
- 高曠(こうこう):高く広く、包容力があり朗らかなこと。
- 疎狂(そこう):だらしない、奔放すぎて節度を失うこと。
- 縝密(しんみつ):繊細で整っていること、熟慮されているさま。
- 瑣屑(させつ):細かすぎてどうでもいいことにこだわる、小人物的な態度。
- 沖淡(ちゅうたん):あっさりして清らかなこと。無欲で自然体な趣。
- 偏枯(へんこ):片寄って枯れたように冷たくなること。
- 操守(そうしゅ):節操、道徳的な一貫性や信念。
- 嚴明(げんめい):厳正でありながらも理性のある姿勢。
- 激烈(げきれつ):厳しさが過ぎて攻撃的・非寛容になること。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
人の風格や雰囲気は高く広く包容力があるべきだが、奔放で節度を欠いてはいけない。
思考は丁寧で綿密であるべきだが、細かいことにこだわりすぎてはいけない。
趣味は淡く上品なものがよいが、無味乾燥で片寄っていてはいけない。
信念や節操は厳格で明確であるべきだが、過激すぎて他を責めるようではいけない。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、「美徳と過剰の境界を見極めよ」という教訓を含んでいます。
- どのような美点も、バランスを失えば“過ぎたるは及ばざるが如し”になる。
- 広く、緻密で、清く、正しくあろうとする心は重要だが、それが過剰になると周囲との軋轢や自己疲弊を招く。
- 人間力とは、節度を保ったバランス感覚である。
この章句は、徳の理想を目指しながらも、極端に走らない中庸の美を説くものであり、人格的成熟を図るための格言です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 「威厳」は必要だが、横柄になってはならない(氣象)
リーダーは威厳やスケール感を持ちつつも、謙虚で親しみやすい態度が理想的。
威圧的・奔放では信頼を失う。
▪ 「緻密な思考」は良いが、完璧主義にならぬように(心思)
戦略や資料作成において、丁寧さは大切だが、
「粗探し」や「重箱の隅つつき」は逆効果。 チームの健全性を損なう。
▪ 「淡泊な趣味・価値観」は上質さを示すが、味気なさはNG(趣味)
簡素・控えめなスタイルは好まれるが、人間味や情感がなければ共感されない。
▪ 「厳正な信念」は必要だが、押し付けると破壊的(操守)
社内ルールや理念を厳しく守ることは重要だが、
他者への思いやりや柔軟性がなければ、対立を招くだけ。
8. ビジネス用の心得タイトル
「節度ある美徳が人を高める──バランスこそが真の人格力」
この章句は、リーダーシップ・人間関係・組織運営において、
“良かれと思ったことが極端になっていないか”を点検するための大切な指針になります。
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