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欲を抑えることは、品格を守る最大の「財産」である

人がもし、たった一つでも「私利私欲」に心を染めてしまえば、
本来持っていたはずの強さはたちまち弱くなり、
澄んでいたはずの知恵は曇り、
人を思いやる優しさは残酷さへと変わり、
清廉な心は穢れてしまう。

その結果、積み上げてきた一生の人格や品格までもが、一瞬にして壊れてしまう。

だから古人はこう言った——
「私にとっての宝は、“貪らぬ心”だ」と。

これは、春秋時代の司城子罕(しじょう・しかん)という人物の言葉であり、
世俗的な価値(名誉・財産)を超えた生き方の、まさに核心を突いている。

欲を抑えることは損ではない。
それは、自分の魂を守るための、最も確かな「富」なのである。


原文とふりがな付き引用

人(ひと)は只(ただ)だ一念(いちねん)貪私(たんし)なれば、便(すなわ)ち剛(ごう)を銷(しょう)して柔(じゅう)と為(な)し、智(ち)を塞(ふさ)ぎて昏(こん)と為(な)し、恩(おん)を変(へん)じて惨(ざん)と為(な)し、潔(けつ)を染(そ)めて汚(お)と為(な)して、一生(いっしょう)の人品(じんぴん)を壊了(かいりょう)す。
故(ゆえ)に古人(こじん)、貪(むさぼ)らざるを以(もっ)て宝(たから)と為(な)すは、一世(いっせ)の度越(どえつ)する所以(ゆえん)なり。


注釈(簡潔に)

  • 貪私(たんし):私利私欲を追い求める心。自分本位の欲望。
  • 銷剛爲柔(ごうをしょうしてじゅうとなす):強さが欲によって溶けて、弱さに変わること。
  • 人品(じんぴん):人の品格、人格、人生の品。
  • 壊了(かいりょう):壊してしまう、破滅すること。
  • 古人(こじん):ここでは司城子罕(しじょう・しかん)を指す。前漢『新序』に記録がある名言。

1. 原文

人只一念貪私、銷剛爲柔、塞智爲昏、變恩爲慘、染潔爲汚、壞了一生人品。故古人以不貪爲寶、可以度越一世。


2. 書き下し文

人はただ一念(いちねん)貪私(たんし)なれば、すなわち剛(ごう)を銷(しょう)して柔(じゅう)となし、智(ち)を塞(ふさ)いで昏(こん)となし、恩(おん)を変じて惨(ざん)となし、潔(けつ)を染めて汚(お)となし、一生の人品(じんぴん)を壊了(かいりょう)す。
故に古人(こじん)、貪らざるを以て宝と為すは、一世を度越(どえつ)する所以なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)

  • 人只一念貪私、銷剛爲柔、塞智爲昏、變恩爲慘、染潔爲汚、壞了一生人品。
     → 人はただ一つの利己的な欲(私欲)を持っただけで、
      まっすぐな強さは失われて弱さとなり、知恵は閉ざされて愚かとなり、
      思いやりは冷酷に変わり、清らかさは汚されて、
      ついには一生かけて築いてきた人格まで台無しにしてしまう。
  • 故古人以不貪爲寶、可以度越一世。
     → だからこそ、古人は「貪らぬ心」を人生最大の宝とし、
      その清らかな心によって、一生を超然として生き抜いたのである。

4. 用語解説

  • 貪私(たんし):私利私欲にとらわれること。自分の利益だけを追う心。
  • 銷剛為柔(ごうをしょうしてじゅうとなし):本来持つ正義感や剛直さを失い、妥協や弱さに変わること。
  • 塞智為昏(ちをふさいでこんとなす):知恵や判断力を曇らせ、愚かになる。
  • 変恩為惨(おんをへんじてざんとなす):本来の思いやりが冷酷な感情に変わってしまう。
  • 染潔為汚(けつをそめておとなす):清廉な心が汚されてしまう。
  • 人品(じんぴん):人格、人間性。社会的信頼の根幹。
  • 壊了(かいりょう):壊してしまう、台無しにする。
  • 度越一世(どえついっせい):俗世を超えて、品格を保ち続けること。精神的に高次な生き方。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

人は、たった一つの私欲にとらわれただけで、
本来持っていた強さや知恵、思いやりや清らかさまでを失い、
最終的には、長年かけて築いてきた人格までも壊してしまう。
だからこそ、古の賢人たちは「欲望にとらわれない心」を宝とし、
それを持つことで、一生を通して高潔に生き抜いたのである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「ほんの一瞬の私欲が人格を破壊する」という厳粛な警告であり、
同時に
「無欲の徳こそが、真の人格と幸福を守る」**という積極的な教訓でもあります。

  • 人間は誰しも欲を持つが、欲を持った瞬間に“価値の転倒”が始まる。
  • 剛直は弱さに、知恵は愚かさに、優しさは冷酷さに変質する。
  • 人格は「一つの欲望」で崩壊するほど繊細であり、慎重に守るべきものだ。
  • 古人のように、清貧や節制を“誇り”とする価値観を持つことで、俗世の波を超えて生きることができる。

7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

▪ たった一度の私欲が信頼と評価を破壊する

インサイダー取引、虚偽報告、内部情報の漏洩──いずれも最初は「一念の貪私」から。
一つの誘惑が、築いてきた信頼・キャリア・人間関係を一瞬で壊す。

▪ 人格とは「持続する無欲」で守られる

仕事上の判断、対人関係、チーム運営において、
“自分の損得”より“公の利”を優先する習慣が、最終的に評価と信用を高める。

▪ 組織文化としての“私欲排除”

企業・組織としても、「利益第一」ではなく、
誠実・公正・利他的な価値観を内在化する文化が、長期的な安定と繁栄を導く。


8. ビジネス用の心得タイトル

「一つの欲がすべてを壊す──“無私の徳”こそ、信頼と人格の守り手」


この章句は、日々の判断の中でふと芽生える「私欲」にこそ、最大の警戒心を向けよという、
強烈で本質的な人生訓です。
古人が「不貪(ふたん)=貪らぬこと」を宝としたように、現代の私たちも「誠実・公正・克己心」をもって、
人品を守り、堂々とした一生を築く必要があると示してくれています。

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