たとえ10の言葉のうち9つが的確であっても、人々はそれを「特別に優れている」とは思わない。
しかし、1つでも誤れば、即座に非難が集中する。
10の計画のうち9つが成功しても、功績として称賛されるとは限らない。
だが、たった1つの失敗で、あらゆる批判が押し寄せてくる。
だからこそ、君子はやたらと口を開かず、表に出すぎないようにする。
自分の才や巧みさをひけらかすよりも、「あえて拙く見せておく」「あえて静かにしておく」
そんな控えめな態度こそが、長く信用され、深く尊敬される智慧である。
原文とふりがな付き引用
十(じゅう)の語(ご)九(ここの)中(あ)たるも、未(いま)だ必(かなら)ずしも奇(き)と称(しょう)せず。
一(いち)語(ご)中(あ)たらざれば、則(すなわ)ち愆尤(けんゆう)騈(なら)び集(あつ)まる。
十(じゅう)の謀(ぼう)九(ここの)成(な)るも、未(いま)だ必(かなら)ずしも功(こう)を帰(き)せず。
一(いち)謀(ぼう)成(な)らざれば、則(すなわ)ち訾議(しぎ)叢(むら)がり興(おこ)る。
君子(くんし)は、寧(むし)ろ黙(もく)して躁(そう)なること毋(な)く、寧(むし)ろ拙(せつ)にして巧(こう)なること毋(な)き所以(ゆえん)なり。
注釈(簡潔に)
- 奇(き):優れた、非凡な人。
- 愆尤(けんゆう):過失を責めること。非難。
- 訾議(しぎ):中傷や悪口、批判。
- 躁(そう):言葉数が多く、騒がしい。軽率な発言。
- 拙(せつ)にして巧(こう)なること毋し:あえて不器用に見せることで、賢さをひけらかさない態度。
1. 原文
十語九中、未必稱奇。一語不中、則愆尤騈集。十謀九成、未必歸功。一謀不成、則訾議叢興。君子寧默毋躁、寧拙毋巧。
2. 書き下し文
十(とお)の語、九中(あた)るも、未(いま)だ必ずしも奇(き)と称(しょう)せず。
一語中(あた)らざれば、則(すなわ)ち愆尤(けんゆう)騈(なら)び集(あつ)まる。
十の謀(はかりごと)、九成(な)るも、未だ必ずしも功を帰(き)せず。
一謀成らざれば、則ち訾議(しぎ)叢(むら)がり興(おこ)る。
君子は、寧(むし)ろ黙して躁(そう)なること毋(な)く、寧ろ拙(せつ)にして巧(こう)なること毋き所以(ゆえん)なり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳す)
- 十語九中、未必稱奇。
→ 十のうち九つの言葉が正しくても、それだけでは称賛されるとは限らない。 - 一語不中、則愆尤騈集。
→ しかし、たった一つの言葉を誤れば、責めや非難が一斉に寄せられる。 - 十謀九成、未必歸功。
→ 十の計画のうち九つが成功しても、それで功績として評価されるとは限らない。 - 一謀不成、則訾議叢興。
→ 一つでも計画が失敗すれば、非難や批判が群がって起こる。 - 君子寧默毋躁、寧拙毋巧。
→ 君子(徳のある人物)は、むしろ沈黙を保ち、軽々しく騒がず、巧妙さよりも誠実な拙さを大切にするものである。
4. 用語解説
- 中(あた)る:言動や計画が的を射ていること。
- 奇(き)と称す:驚くべき才能・素晴らしさとして称賛する。
- 愆尤(けんゆう):過失と責め。非難や失敗の咎。
- 訾議(しぎ):非難・悪口・批評。
- 叢興(そうこう):群がるようにわき起こる。
- 躁(そう):せわしなく軽々しいさま。焦る・浮つく態度。
- 拙(せつ):不器用・素朴・飾らない姿勢。
- 巧(こう):器用・技巧に長けていること。ただし誠実さを欠く場合がある。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
どれほど多く正しいことを言っても、それだけで評価されるとは限らない。
しかし、たった一つ誤った言葉があれば、責めや非難が集まってくる。
多くの成功を収めても、それがそのまま称賛にはつながらない。
だが一つの失敗で、多くの批判が起こるものだ。
だからこそ、君子は軽々しく喋らず、落ち着いて控えめにあり、器用に立ち回るよりも、不器用でも誠実であることを重んじるのである。
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「評価されること・批判されることの不均衡」と「人としての正しい姿勢」**を教えています。
- 人は失敗には厳しく、成功には鈍感。
- だから、言葉や行動には慎みが必要であり、軽はずみに目立つことを良しとしないほうが良い。
- 器用に立ち回るよりも、不器用でも誠実さ・沈黙・落ち着きを保つことが、長い目で見て信頼と成功を呼び込む。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)
▪ 成果よりも失敗が目立つ現実にどう向き合うか
大きな成果をあげても、小さなミスで信用を損なうことがある。
リスクマネジメントだけでなく、日々の謙虚さが重要。
▪ 「言い過ぎない」「控えめに語る」ことの大切さ
会議やプレゼンで多くを語るより、的確に・節度ある言葉を選ぶ人が信頼を得る。
「寧黙毋躁(むしろ黙すべし、浮つくべからず)」がプロフェッショナルの美学。
▪ 巧みに振る舞うより、拙でも誠実に
華やかに見せる技術より、地味でも信頼される振る舞いを重視すべき。
“誠実な拙さ”がチームや顧客の信頼を築く。
8. ビジネス用の心得タイトル
「一語の誤りがすべてを壊す──黙して拙く、誠を尽くせ」
この章句は、**「過剰に語らず、過剰に求めず、ただ誠実であれ」**という、現代にも通じる人間関係とリーダーシップの知恵を凝縮した名言です。
巧さではなく、静かさと慎みの中にこそ、本当の力が宿ることを教えてくれます。
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