人はしばしば「何があれば幸せか」と考えるが、
本当の幸福とは、実は「何もないこと」にある。
心穏やかに、波風立たぬ日常を過ごせること――
それが何よりの福である。
一方、不幸の根源とは何か。
それは「欲が多いこと」「心に思いが多すぎること」にある。
次から次へと欲望を抱え、あれもこれもと追い求めれば、
どれほど恵まれた環境にいても、
心は休まらず、むしろ苦しみは増すばかりである。
とはいえ、人はなかなかそのことに気づけない。
本当に苦労を重ねた者だけが、ようやく「何もない日々のありがたさ」に目覚める。
心を静め、内省できる者だけが、
「欲が多いことは実は不幸である」と理解できるようになる。
人生の幸福とは、にぎやかな出来事の中にではなく、
何事もない「静けさの中」にひっそりと宿っている。
「福(ふく)は事(こと)少(すく)なきより福なるは莫(な)く、
禍(わざわい)は心(こころ)多(おお)きより禍なるは莫し。
唯(た)だ事に苦(くる)しむ者のみ、方(はじ)めて事少なきの福為(た)るを知(し)り、
唯だ心を平(たい)らかにする者のみ、始(はじ)めて心多きの禍為るを知る。」
注釈:
- 事少なき(ことすくなき)…事件や問題がない、平穏無事な状態。日常の静けさ。
- 心多き(こころおおき)…欲望や関心が多く、心がざわついている状態。あれこれと気を回しすぎること。
- 方めて(はじめて)…ようやく。やっとのことで気づく様子。
- 始めて(はじめて)…物事の真意に初めて気づく瞬間。
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