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欲望の一歩は崖、信念の一歩は道を遠ざける

人の欲望を満たす道は、手軽で楽に見えるが、
「ほんの少しだけ」と軽い気持ちで手を出してしまうと、
その一歩がやがて際限ない深みに変わり、
ついには身を持ち崩し、奈落の底まで落ちてしまう。

一方、自分の信じる「道理にかなった生き方」は、
たしかに険しく、時に困難を伴うものである。
しかし、「少しぐらい妥協してもいいだろう」と考えてしまえば、
その小さな退歩は、やがて道理との距離を千の山ほどにも広げてしまう。

欲に妥協すれば堕落に至り、信念に妥協すれば迷走する。
だからこそ、人は欲望に流されず、
正しいと思う道に、一歩も退かぬ覚悟で生きるべきである。


「欲路上(よくろじょう)の事(こと)は、其(そ)の便(べん)を楽しみて、
姑(しばら)くも染指(せんし)を為(な)すこと毋(なか)れ。
一(ひと)たび染指せば、便(すなわ)ち深く万仞(ばんじん)に入(い)らん。
理路上(りろじょう)の事は、其の難(なん)を憚(はばか)りて、
稍(わず)かも退歩(たいほ)を為すこと毋かれ。
一たび退歩せば、便ち遠(とお)く千山(せんざん)を隔(へだ)てん。」


注釈:

  • 欲路上の事(よくろじょうのこと)…欲望を満たす道。安易な快楽や利益に惹かれる行動。
  • 染指(せんし)…文字どおり「指を染める」。欲望に手を出すこと。ほんの少し関わること。
  • 万仞(ばんじん)…非常に深い谷。仞(じん)は古代中国の長さの単位で、万仞は深淵の象徴。
  • 理路上の事(りろじょうのこと)…道理にかなったこと、正しいと信じる行い。
  • 退歩(たいほ)…一歩後退すること。妥協や譲歩のこと。
  • 千山を隔つ(せんざんをへだつ)…遥かに遠く隔たる。二度と戻れないほどの距離になるという比喩。
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