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利口より、素朴に。飾りより、気骨を。

人に利口に見られようと、あれこれ小賢しく立ち回るよりも、
素朴で実直な姿勢を貫いて生きるほうが、はるかにすがすがしく価値がある。
私たち一人ひとりの中には、天地のもとから授かった「正気(せいき)」――
すなわち根源的な命の力が宿っている。
その正気を曇らせることなく誠実に生き、
やがてその気を天地に返して静かに去るのが、自然で美しい人生である。
華やかで派手な暮らしは、結局むなしく、内実をともなわない。
それよりも、質素で飾らず、それでいて芯のある生き方のほうが、
天地にすがすがしい「清名(せいめい)」を遺すことができる。
人生は“見せる”ためにあるのではなく、“残す”ためにある。


「寧(むし)ろ渾噩(こんがく)を守(まも)って聡明(そうめい)を黜(しりぞ)け、
些(すこ)かの正気(せいき)を留(とど)めて天地(てんち)に還(かえ)せ。
寧ろ紛華(ふんか)を謝(しゃ)して澹泊(たんぱく)に甘(あま)んじ、
一個(いっこ)の清名(せいめい)を遺(のこ)して乾坤(けんこん)に在(あ)れ。」


注釈:

  • 渾噩(こんがく)…素朴で飾らない状態。小細工せず、実直に生きること。
  • 黜聡明(ちゅつそうめい)…知恵を見せびらかさず、自分を賢く見せようとしないこと。
  • 正気(せいき)…天地の本源的なエネルギー。『孟子』でいう「浩然の気」。
  • 紛華(ふんか)…華やかさ。虚飾に満ちた外見や表面的な生活。
  • 澹泊(たんぱく)…淡白で飾り気のないこと。物欲や名声を求めない姿勢。
  • 清名(せいめい)…清らかで後に残る名声。虚飾でなく、真に尊ばれる評価。
  • 乾坤(けんこん)…天地、世の中全体。
目次

1. 原文

寧守渾噩而黜聰明、留些正氣還天地。
寧謝紛華而甘澹泊、留個清名在乾坤。


2. 書き下し文

寧ろ渾噩を守って聡明を黜け、些かの正気を留めて天地に還せ。
寧ろ紛華を謝して澹泊に甘んじ、個の清名を遺して乾坤に在れ。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「寧ろ渾噩を守って聡明を黜け、些かの正気を留めて天地に還せ」
     → むしろ賢さをひけらかさず、世間知らずに見られても、純粋で正しい心を少しでも残し、それを天地に返すように生きるほうがよい。
  • 「寧ろ紛華を謝して澹泊に甘んじ、個の清名を遺して乾坤に在れ」
     → むしろ華やかさや虚飾を捨てて、質素で淡々とした生活に満足し、後世に清らかな名声を残すべきである。

4. 用語解説

  • 渾噩(こんがつ):一見愚鈍に見えるような、飾らぬ無為自然の状態。世俗的な聡明さと対比される。
  • 黜(しりぞ)ける:退ける、捨てる、用いない。
  • 正気(せいき):正しい精神、真っ直ぐで潔い心。
  • 還天地(てんちにかえす):天地自然にその精神を返す。世俗に流されず、清らかな心を自然と共に保つという意味。
  • 紛華(ふんか):派手で華やかなもの。名声、富貴、贅沢な暮らしなど。
  • 澹泊(たんぱく):欲望にとらわれず、あっさりとした質素な生活。
  • 清名(せいめい):清らかな名声。汚れなき人格としての評判。
  • 乾坤(けんこん):天地。世界の意。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

賢さを誇らず、愚かに見えることを恐れず、正しい心をほんの少しでも残して、それを天地自然に返すように生きよ。
華やかな成功や贅沢を捨て、質素で控えめな生活に満足する中で、清く正しい名をこの世に残すべきである。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、知性や成功を追い求める現代人に対する深い警鐘です。

人間は“賢く見られたい”“豊かで目立ちたい”という欲望に駆られがちですが、それらをあえて退け、質朴で誠実な生き方を選ぶことこそ、真の人間らしさだと教えています。

「渾噩」=一見愚かに見える姿、「澹泊」=淡々とした生活は、どちらも“無駄がない本質的な在り方”への賛美です。
他者からどう見られるかではなく、自分が天地に正しい心を返せるかどうか──その視点を持てるかが、人間としての完成を分けるのです。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 聡明さを誇らず、謙虚さを守る

鋭さや頭の良さを見せつけるのではなく、あえて語らず、深く考え、実行で示すリーダーこそ、信頼される存在です。

● 表面的な成功より「誠実な足跡」を残す

派手な業績や名声を狙うよりも、一貫した誠意と清潔な仕事を積み重ねることが、長い目で見て評価される「清名」となります。

● 質素な生き方が持続可能な幸福をもたらす

豪奢や物質的な成功よりも、心が満たされる仕事と人間関係に重点を置くことが、現代的な「澹泊」です。真のウェルビーイングを求める企業文化に合致します。


8. ビジネス用の心得タイトル

「誇らず、飾らず、澄んだ名を──静かなる本質が道を拓く」


この章句は、**「誠実に淡々と生きることこそ、最も力強いリーダーシップの源である」**という、時代を超えたメッセージを持っています。


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