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低い場所に身を置くことで、真実が見えてくる

高い地位にあるときは、その危うさに気づけない。
しかし、一度そこから離れて低い場所に身を置いてみると、
上に登ることがいかに危険で重圧を伴うものかが、はっきりとわかってくる。
また、人目の届かぬ静かな暮らしを送ってみると、
世間で自己をひけらかし、活躍しすぎていたことが、
実はとても不自然で、無理をしていたのだと気づく。
落ち着いた環境に身を置くことで、
慌ただしく動き回っていた日々の多くが徒労にすぎなかったと悟る。
言葉を抑えて静かにしていると、
かつて多弁だったことが、どれだけ軽々しく、無益だったかが見えてくる。
沈黙・静寂・謙遜のなかにこそ、人生の真理がある。


「卑(ひく)きに居(お)りて而(しか)る後(のち)に、高(たか)きに登(のぼ)るの危(あやう)きを知(し)る。
晦(くら)きに処(お)りて而る後に、明(あか)るきに向(む)かうの太(はなは)だ露(あら)わるるを知る。
静(しず)かを守(まも)りて而る後に、動(うご)くを好(この)むの労(ろう)に過(す)ぐるを知る。
黙(もく)を養(やしな)いて而る後に、言(げん)多(おお)きの躁(そう)為(な)るを知る。」


注釈:

  • 卑きに居りて…低い地位や立場に身を置くこと。物事を俯瞰できる立場に戻るという意味合いもある。
  • 高きに登るの危為る…高位に就くことのリスク。見栄、慢心、周囲の嫉妬など。
  • 晦きに処りて…静かな環境、隠遁生活に身を置くこと。心の観照の時間。
  • 明るきに向かうの太だ露るる…公の場での過度な自己表現が、目立ちすぎて不自然であること。
  • 動を好むの労に過ぐる…過剰な行動、忙しさが実を結ばず、疲弊だけをもたらすこと。
  • 言多きの躁為る…おしゃべりが騒々しく、軽薄な印象を与えること。
目次

1. 原文

居卑而後、知登高之為危。
處晦而後、知向明之太露。
守靜而後、知好動之為勞。
養默而後、知多言之為躁。


2. 書き下し文

卑きに居りて、而る後に、高きに登るの危きを知る。
晦きに処りて、而る後に、明るきに向かうの太だ露るるを知る。
静を守りて、而る後に、動を好むの労を知る。
黙を養いて、而る後に、多く言うの躁なるを知る。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 「卑きに居りて、而る後に、高きに登るの危きを知る」
     → 低い地位や身分に甘んじてこそ、高い地位に登ることの危険さがわかるようになる。
  • 「晦きに処りて、而る後に、明るきに向かうの太だ露るるを知る」
     → 暗い場所に身をひそめてみて初めて、明るみに出ることがいかに目立ちすぎるかがわかる。
  • 「静を守りて、而る後に、動を好むの労を知る」
     → 静けさを保ってこそ、絶えず動き回ることがいかに疲れるかが実感できる。
  • 「黙を養いて、而る後に、多く語ることの軽薄さを知る」
     → 沈黙を保つことを大切にしてこそ、しゃべりすぎることの落ち着きのなさや軽率さに気づくことができる。

4. 用語解説

  • 居卑(きょひ):身分や地位が低いところに身を置くこと。謙虚な立場にいること。
  • 登高之為危(とうこうのためにあやうし):「高きに登るの危うき」=目立つ地位には危険が伴うという意味。
  • 處晦(しょかい):闇に身を置くこと。世に出ない、隠れた存在として生きること。
  • 太露(たいろ):露わすぎる、目立ちすぎるさま。
  • 守靜(しゅせい):静けさを守ること。内省的であること。
  • 好動(こうどう):動くことを好む。せわしなく動き回る性質。
  • 養默(ようもく):沈黙を養うこと。口を慎む習慣を培う。
  • 躁(そう):落ち着きがない、騒がしい、せっかちで軽はずみな状態。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

低い地位に身を置いて初めて、高い地位に登ることの危険がわかる。
世に出ないで過ごしてみて初めて、表舞台に立つことの目立ちすぎる危うさがわかる。
静けさの中に身を置いてこそ、常に動いてばかりいることの疲労がわかる。
沈黙を養ってこそ、しゃべりすぎることの落ち着きのなさや軽薄さが見えてくる。


6. 解釈と現代的意義

この章句は、**「対極を経験してこそ真実が見える」という人間理解の深さを表しています。
成功・権力・自己表現といった“上昇”や“発信”の側に偏るのではなく、
「一度身を引いてみること」**の重要性を語っています。

現代社会では、目立ち、動き、語り、上を目指すことばかりが賞賛されがちですが、本当の知恵とは、静けさ・沈黙・陰・謙虚さを経験することで初めて得られるものです。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き)

● 昇進前に「下積み」を経験せよ

高いポジションに立つ人ほど、かつての下積みの苦労を知っていることが必要です。**現場経験やサポート業務を通じて「登高の危うさ」**を実感することで、謙虚で地に足のついたリーダーになれます。

● 表舞台より、裏方で見える真実がある

常に目立とうとする姿勢は、かえって本質から遠ざかります。**一歩引いて周囲を観察する姿勢(処晦)**が、長期的な信頼と洞察を育みます。

● 休む力・止まる力が「真のパフォーマンス」を生む

動き続けることが成果ではありません。静けさ(守静)や休養から得られる深い集中や回復が、より創造的で持続可能な成果を生み出します。

● 話す前に「黙る習慣」を持て

言葉が多いことが説得力ではありません。沈黙の中に思考が宿り、発言の重みが生まれます。沈黙と観察に価値を置く人材は、ブレない信頼を得やすいのです。


8. ビジネス用の心得タイトル

「一歩引いて見える本質──静と黙が導く真の力」


この章句は、リーダーシップや自己修養の要諦を簡潔に示した、ビジネスパーソンにとって極めて重要な「静の思想」です。


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