動くことばかりを好む者は、雲間を走る稲妻や風前の灯火のように、いつか消えてしまう危うさがある。
反対に、静けさを求めすぎる者は、冷えた灰や枯れ木のように、生気を失ってしまう。
理想は、静かな「止まった雲」「流れぬ水」のような境地に身を置きつつ、
その内には鳶が空を舞い、魚が水中で躍るような躍動感を秘めていること。
それが、真に道を修めた人の気質である。静けさと生気の調和が、成熟した生の証なのだ。
「動(どう)を好(この)む者(もの)は、雲電風燈(うんでんふうとう)、
寂(じゃく)を嗜(たしな)む者は、死灰槁木(しかいこうぼく)なり。
須(すべか)らく定雲止水(ていうんしすい)の中に、
鳶(とび)飛(と)び魚(うお)躍(おど)るの気象(きしょう)有(あ)るべくして、
纔(わず)かに是(これ)れ有道(うどう)の心体(しんたい)なり。」
注釈:
- 雲電風燈(うんでんふうとう)…稲光や風前の灯火。活発だが不安定で儚い様子。
- 死灰槁木(しかいこうぼく)…冷えた灰や枯れ木。静的すぎて命の気配がない状態。
- 定雲止水(ていうんしすい)…動かない雲、澄んだ静水。心の静けさや安定した境地。
- 鳶飛び魚躍る(とびとびうおおどる)…空を飛ぶ鳶や、水中で跳ねる魚のように、内面に躍動感と生命力を持っていること。
- 気象(きしょう)…その人の気質・精神のあり方。
1. 原文:
好動者、如雲電風燈;嗜寂者、如死灰槁木。
須定雲止水中、有鳶飛魚躍之氣象,纔是有道之心體。
2. 書き下し文:
動を好む者は、雲電風燈のごとく、
寂を嗜む者は、死灰槁木のごとし。
須(すべか)らく定雲止水の中に、鳶(とび)飛び魚(うお)躍るの気象あるべくして、
纔(わず)かに是れ有道(うどう)の心体(しんたい)なり。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「動を好む者は、雲電風燈のごとし」
→ 常に活動や変化を求める人は、雲や稲妻、風や灯火のように不安定で落ち着きがない。 - 「寂を嗜む者は、死灰槁木のごとし」
→ 静けさだけを好む人は、燃え尽きた灰や枯れ木のように、活気や生命力に欠けている。 - 「須らく定雲止水の中に、鳶飛び魚躍るの気象あるべくして」
→ 落ち着いた雲や静かな水のように安定した心の中に、鳶が空に舞い、魚が水に躍るような生き生きとした躍動感があるべきだ。 - 「纔かに是れ有道の心体なり」
→ それこそが、真に道(真理・徳)を備えた人の心のあり方である。
4. 用語解説:
- 雲電風燈(うんでんふうとう):変わりやすく不安定な自然現象のたとえ。軽躁・不定の象徴。
- 死灰槁木(しかいこうぼく):燃え尽きた灰や枯れ木。感情も活力も失われた無気力状態の象徴。
- 定雲止水(ていうんしすい):落ち着いた雲と静止した水のように、動揺のない静かな心。
- 鳶飛魚躍(えんぴぎょやく):鳶が空に舞い、魚が水に躍る。自然で自由な生命の躍動。
- 氣象(きしょう):ここでは「気配・表情・生命感・風格」といった内的な雰囲気の意。
- 有道(うどう):道理をわきまえ、徳を備えた人格者。
- 心体(しんたい):心の在り方・精神の実体。
5. 全体の現代語訳(まとめ):
常に動き回ることばかり好む人は、風や雷のように落ち着きがなく、
静けさだけを求める人は、燃え尽きた灰や枯れ木のように活力を失っている。
本当に徳のある人間とは、落ち着いた心の中にあっても、
空を舞う鳶や水に跳ねる魚のような、生命力と豊かな表情を内に秘めているものである。
6. 解釈と現代的意義:
この章句は、「動と静」「活力と安定」のバランスこそが、真の人格の証であると説いています。
■ 動だけでは軽く、静だけでは鈍い。
現代でも、“アクティブすぎて落ち着きのない人”や、“沈静しすぎて魅力に欠ける人”がいますが、
重要なのは、静かな中に躍動感を秘めること。
■ 表面は穏やかに、内面は情熱的に。
これこそが「内剛外柔」の理想であり、ビジネスや人間関係においても強く穏やかな印象を与える要素です。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):
- 「冷静沈着でありながら、内には熱意と行動力を持つリーダーが真の実力者」
場当たり的に動き回るリーダーは信頼されず、
かといって指示だけで何もしない者も敬遠される。
静かでありながら確実に動く力こそ、真のリーダーシップ。 - 「派手さではなく、内面の生命力とエネルギーが長期的成果を生む」
日々黙々と積み重ねているが、核心では情熱と野心を燃やしている──そんな人材こそ信頼される。 - 「落ち着いた雰囲気の中に、創造と挑戦を」
チームやプロジェクトも、見かけは穏やかでも、
内部では革新・飛躍のエネルギーがある状態が理想。
「定雲止水にして、鳶飛魚躍」は、組織文化の理想型でもある。
8. ビジネス用の心得タイトル:
「静けさの中に躍動を──内剛外柔こそ、真の実力者」
この章句は、落ち着きと活力、安定と創造性を併せ持つことの大切さを、自然の姿を借りて美しく説いています。
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