すべての物事において、少しのゆとりを残し、控えめな気持ちを持ち続けるならば、
天も私を嫌って罰を下すことはなく、神々も害を加えることはない。
しかし、事業や行いにおいて「満ち足りるまで」「最後まで」成果を求め、
欲深く突き進む者には、やがて内側からの崩壊か、外からの攻撃が必ず訪れる。
飽くなき欲望は、自らの身を滅ぼす火種となる。
ほどほどを知ること――それが無事に生きる最大の知恵である。
「事事(じじ)、個(すこ)しの有余不尽(ゆうよふじん)の意思(いし)を留(とど)むれば、
便(すなわ)ち造物(ぞうぶつ)も我(われ)を忌(い)むこと能(あた)わず、鬼神(きしん)も我を損(そこ)すること能わず。
若(も)し業(ぎょう)は必(かなら)ず満(まん)を求(もと)め、功(こう)は必ず盈(えい)を求むるは、
内変(ないへん)を生(しょう)ぜざれば、必ず外憂(がいゆう)を召(まね)かん。」
注釈:
- 有余不尽(ゆうよふじん)…すべてを取り尽くさず、少し控えめにとどめること。欲望を抑えた姿勢。
- 造物(ぞうぶつ)…天地自然をつくった存在。ここでは「天」のこと。
- 鬼神(きしん)…祖霊や自然神など超自然的存在。目に見えぬ力の象徴。
- 満を求める/盈を求める…全てを自分のものにしようとすること。成功や成果を限界まで追い求めること。
- 内変(ないへん)…内部からの崩壊。信頼の失墜や組織の裏切りなど。
- 外憂(がいゆう)…外部からの攻撃や災難。
1. 原文:
事事、留個有餘不盡之意思,則造物不能忌我,鬼神不能損我。
若業必求滿,功必求盈者,不生內變,必召外憂。
2. 書き下し文:
事事、個(ひとつ)の有余不尽の意思を留むれば、すなわち造物も我を忌むこと能(あた)わず、鬼神も我を損すること能わず。
若(も)し業は必ず満を求め、功は必ず盈(えい)を求むる者は、内変を生ぜざれば、必ず外憂を召(しょう)かん。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):
- 「事事、個の有余不尽の意思を留むれば」
→ あらゆる事において、あえて“少し余らせておく”という心がけを持てば、 - 「造物も我を忌むこと能わず、鬼神も我を損すること能わず」
→ 天の運行や自然の力(=造物)も、また目に見えぬ力(=鬼神)も、私を妬まず、害を与えられない。 - 「若し業は必ず満を求め、功は必ず盈を求むる者は」
→ もし仕事は必ず完全を目指し、功績は満点を求めるような人は、 - 「内変を生ぜざれば、必ず外憂を召かん」
→ 心の中に変調をきたさなくても、必ず外から災いがやってくるだろう。
4. 用語解説:
- 有余不尽(ゆうよふじん):あえて全部を使い切らず、少し余裕や余白を残すこと。
- 個(ひとつ)の意思を留む:心の中にその考えを持つこと。
- 造物(ぞうぶつ):天地自然、あるいは運命や宿命など超越的な力のこと。
- 鬼神(きしん):見えない霊的存在。神仏や精霊、運命を象徴する力。
- 盈(えい):満ちること、満杯、溢れるほどになること。
- 内変・外憂(ないへん・がいゆう):内面的な崩れ(心・身体)、外部からの災難(社会的トラブルや環境変化)を指す。
5. 全体の現代語訳(まとめ):
あらゆることにおいて、少し余裕を残して完璧を求めないという心構えを持っていれば、
自然の摂理も、目に見えない力も、自分を妬んだり傷つけたりすることはできない。
しかし、仕事や成果において常に“完全”や“満点”を求めるような生き方をしていれば、
内面的に不安やストレスを抱えないまでも、外からのトラブルや災いに遭うことは避けられない。
6. 解釈と現代的意義:
この章句は、**「完璧主義の危うさ」と「余白を持つ知恵」**を説いています。
すべてを完璧に仕上げようとすれば、周囲との摩擦や過剰な競争、あるいは自分自身への過負荷につながります。
逆に、“ほどほど”や“余白”を意識することで、心に柔らかさが生まれ、自然や他者との調和が保たれます。
この思想は、現代で言うところの 「8割主義」「引き算の美学」「余白の戦略」 にも通じます。
7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):
- 「完璧を目指さず、余白を残すことで長期的安定を保つ」
100%の完成度ではなく、80〜90%の余地を残すことで、変更・改善・調整の余裕が生まれる。 - 「“余白”が組織の柔軟性と耐性を高める」
人員配置や予算などに余力を残すことで、急な変化にも対応でき、組織が持続的に成長できる。 - 「“成果至上主義”がもたらす危険を避ける」
成果を最大限に求めすぎると、社内の摩擦や倫理の崩壊、長期的な組織の消耗につながる。
“あと一歩”を譲ることで、信頼と余裕が育まれる。
8. ビジネス用の心得タイトル:
「余白にこそ安らぎと持続力──満たさず残す知恵が、災いを遠ざける」
この章句は、現代社会の「常に満たそうとする圧力」に対して、意図的に「余白を残す」ことで調和と安全を保つという深い示唆を与えてくれます。
コメント