得意の絶頂にあり、運や人の恩に恵まれているときこそ、
思わぬ災いが起こりやすい。だからこそ、好調なときには早めに頭を冷やし、
自らを戒めて心を引き締めることが大切だ。
一方、失敗が続き心が挫けそうなとき――
実はその先にこそ、反転して成功が生まれることが多い。
だからこそ、辛さに負けて手を放してはならない。
潮が最も引いたときこそ、満ちるときが近いのである。
「恩裡(おんり)に由来(ゆらい)害(がい)を生(しょう)ず。
故(ゆえ)に快意(かいい)の時、須(すべか)らく早(はや)く頭(こうべ)を回(めぐ)らすべし。
敗後(はいご)に或(ある)いは反(かえ)って功(こう)を成(な)す。
故に払心(ふっしん)の処(ところ)、便(すなわ)ち手(て)を放(はな)つこと莫(なか)れ。」
注釈:
- 恩裡(おんり)…人からの厚い情けや、運に恵まれた順境のとき。自覚のない「慢心」に陥りやすい状態。
- 快意(かいい)…物事が順調に進み、満足しているときの気分。
- 頭を回らす…我に返って気を引き締める。調子の良さに酔わない自制の姿勢。
- 敗後(はいご)…失敗や挫折のあと。見放されたように感じる状況。
- 払心(ふっしん)…不快な状況、思いどおりにいかない心の状態。葛藤や苦悩の中にいること。
- 手を放つこと莫かれ…途中で投げ出すな、という戒め。
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