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本物は淡く、目立たず、しかし深い

濃い味の料理は、素材をごまかしてしまい、真の味とは言えない。
本当にうまい料理は、むしろ淡く、素材の持ち味を活かしたものだ。
人もまた同じで、本物の人物は目立つでもなく、奇抜でもなく、
あくまでも自然で、平凡な姿をしている。
見た目や才能の派手さに惑わされず、静かな深さを持つ「常」の中にこそ、本質が宿る。


「醲肥辛甘(じょうひしんかん)は真味(しんみ)に非(あら)ず。
真味は只(ただ)是(こ)れ淡(たん)なり。
神奇卓異(しんきたくい)は至人(しじん)に非ず。
至人は只是れ常(じょう)なり。」


注釈:

  • 醲肥辛甘(じょうひしんかん)…濃い酒や脂の多い料理、辛さ・甘さなど強い味。つまり刺激的で誇張されたもの。
  • 真味(しんみ)…本当の味。自然で飽きが来ず、素材の良さがにじみ出る味。
  • 淡(たん)…あっさりとした、静かな味わい。控えめだが奥深い。
  • 神奇卓異(しんきたくい)…驚くような才能や特別さで人目を引く存在。表面的な非凡さ。
  • 至人(しじん)…真に完成された人物。卓越した精神を持ちながら、外見はごく普通である人。

1. 原文:

醲肥辛甘非眞味、眞味只是淡。
神奇卓異非至人、至人只是常。


2. 書き下し文:

醲肥辛甘(じょうひしんかん)は真味に非(あら)ず。真味は只(ただ)是(これ)れ淡(たん)なり。
神奇卓異(しんきたくい)は至人に非ず。至人は只是れ常(じょう)なり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ):

  • 「醲肥辛甘は真味に非ず」
     → 濃厚で脂っこく、辛くて甘いような味は、真の味わいではない。
  • 「真味は只是れ淡なり」
     → 真の味わいとは、ただ「淡(あっさりとした、控えめな)」ものである。
  • 「神奇卓異は至人に非ず」
     → 不思議で非凡な能力を持つ者が、必ずしも理想的人格者(至人)ではない。
  • 「至人は只是れ常なり」
     → 真に優れた人物とは、ただ「平凡・常識的」に見える人である。

4. 用語解説:

  • 醲肥辛甘(じょうひしんかん):濃厚な味、脂っこさ、辛さ、甘さなど、刺激的で複雑な味のこと。
  • 真味(しんみ):本当の味、真の価値ある味わい。
  • 淡(たん):あっさりしていること。控えめ、素朴な味わい。
  • 神奇卓異(しんきたくい):不思議で珍しい、並外れた能力や行動。
  • 至人(しじん):理想的人格者、至高の徳を備えた人物。
  • 常(じょう):普通、平凡であること。日常の中にある穏やかさ・安定。

5. 全体の現代語訳(まとめ):

濃くて脂っこい、辛い、甘いといった派手な味は、本当の味ではない。
本当に味わい深いものとは、控えめであっさりとした味である。
また、目立った才能や特異な能力を持っている者が、必ずしも理想の人物ではない。
本当に徳の高い人物とは、見た目にはごく普通で、特別に見えない人である。


6. 解釈と現代的意義:

この章句は、**「本質は目立たず、淡々とした中にこそ真の価値がある」**という東洋的な美学・価値観を表しています。

人はつい、派手さ・非凡さ・刺激に惹かれてしまうが、
長く付き合い、深く味わうに足るものは、淡くて穏やかなものなのです。

真に優れた人は、自分をひけらかすことなく、ごく当たり前のことを誠実に積み重ねている。
これは「無為自然」や「素朴の徳」を重んじる老荘思想にも通じる深い境地です。


7. ビジネスにおける解釈と適用(個別解説付き):

  • 「刺激や派手さを追うより、継続と質を重視する」
     トレンドや話題性のある商品・サービスは注目を集めやすいが、
     顧客に長く愛されるのは、あくまで“淡くて飽きのこない価値”である。
  • 「非凡より“凡事徹底”を尊ぶ」
     奇抜な才能や突飛なアイディアに注目が集まりやすいが、
     本当に成果を上げ続けるのは、日常を大切にし、基本を怠らない人材。
  • 「リーダーは“平常心”と“無理のない統率”を」
     カリスマ性や派手なリーダーシップではなく、日々の言動が安定しており、
     安心感を与える「常の力」が、組織に持続的な信頼をもたらす。

8. ビジネス用の心得タイトル:

「あっさりこそ真味、平凡こそ真価──“淡常”の力を侮るな」


この章句は、派手さを求めがちな現代において、「目立たないけれども確かなもの」への再評価を促してくれます。


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