政治に携わる者にとって最も大切なのは、徳をもって民を導き、不徳を遠ざけること。孔子はその基本を「五美」(五つの美徳)と「四悪」(四つの害悪)という明快な基準で説いた。
君子たる為政者は、民に恩恵を与えつつも浪費せず、民に労を求めても恨まれず、欲を持ちながらも貪らず、堂々としながらも驕らず、威厳を持ちながらも恐怖で支配しない――それが「五美」である。
一方、為政者が避けるべき「四悪」は、教えずして罰し、警告なく結果だけを求め、命令を曖昧にしたまま責任を問う、与えるべきものを渋ることである。これらは政治を腐らせ、民の信を失わせる元凶だ。
原文(ふりがな付き引用)
子張(しちょう)、孔子(こうし)に問(と)うて曰(い)わく、「如何(いか)になれば斯(ここ)に以(もっ)て政(まつりごと)に従(したが)うべきか」。
子(し)曰(い)わく、「五美(ごび)を尊(たっと)び、四悪(しあく)を屛(しりぞ)ければ、斯(ここ)に以(もっ)て政(まつりごと)に従(したが)うべし」。子張(しちょう)曰(い)わく、「何(なに)をか五美(ごび)と謂(い)う」。
子(し)曰(い)わく、「君子(くんし)は恵(めぐ)みて費(つい)やさず、労(ろう)して怨(うら)まれず、欲(よく)して貪(むさぼ)らず、泰(たい)にして驕(おご)らず、威(い)にして猛(たけ)からず」。子張(しちょう)曰(い)わく、「何(なに)をか恵(めぐ)みて費(つい)やさずと謂(い)う」。
子(し)曰(い)わく、「民(たみ)の利(り)とする所(ところ)に因(よ)りて之(これ)を利(り)す。斯(これ)亦(また)恵(めぐ)みて費(つい)やさざるにあらずや。労(ろう)すべきを択(えら)びて之(これ)を労(ろう)す。又(また)誰(たれ)をか怨(うら)まん。仁(じん)を欲(ほっ)して仁(じん)を得(え)たり、又(また)焉(いず)くんぞ貪(むさぼ)らん。君子(くんし)は衆寡(しゅうか)と無(な)く、小大(しょうだい)と無く、敢(あ)えて慢(あなど)る無し。斯(これ)亦(また)泰(たい)にして驕(おご)らざるにあらずや。君子(くんし)は其(そ)の衣冠(いかん)を正(ただ)しくし、其(そ)の瞻視(せんし)を尊(たっと)くす。儼然(げんぜん)として人(ひと)望(のぞ)みて之(これ)を畏(おそ)る。斯(これ)亦(また)威(い)にして猛(たけ)からざるにあらずや」。子張(しちょう)曰(い)わく、「何(なに)をか四悪(しあく)と謂(い)う」。
子(し)曰(い)わく、「教(おし)えずして殺(ころ)す、之(これ)を虐(ぎゃく)と謂(い)う。戒(いまし)めずして成(な)るを視(み)る、之(これ)を暴(ぼう)と謂(い)う。令(れい)を慢(おこた)りにして期(き)を致(いた)す、之(これ)を賊(ぞく)と謂(い)う。之(これ)を猶(なお)しく人に与(あた)うるなり。出納(すいとう)の吝(りん)かなる、之(これ)を有司(ゆうし)と謂(い)う」。
補足の解釈
孔子は、政治の本質を「民への思いやりと公平さ」に見出している。五美は、民と真摯に向き合う姿勢を、四悪は不誠実な統治の姿を象徴している。官僚である者ほど、心してこれを学ぶべきである。
注釈(重要語句)
- 五美:恵而不費、労而不怨、欲而不貪、泰而不驕、威而不猛
- 四悪:
- 虐:教えずして罰する
- 暴:警告なしに結果だけ求める
- 賊:命令が曖昧なまま責任を課す
- 吝:与えるべきものを出し惜しむ
- 屛(しりぞ)ける:遠ざける、取り除くこと
- 衆寡:人の多寡、どんな人数でも
- 慢(あなど)る:見下す、軽んじる
- 瞻視(せんし):見つめる様子、態度の端正さ
- 有司(ゆうし):官僚。形式や慣習に縛られ、心を失った役人の象徴
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。「五美四悪」という概念そのものが、孔子の政治哲学を端的に表しており、インパクトと記憶性もあります。
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