子游は、自身の友人である子張について語った。
彼は「人にはなかなかできないようなことを成し遂げる能力の持ち主である」と認めつつも、
「まだ仁の道には達していない」と断じた。
ここで言う「未仁」とは、誠意や人への情(人情・思いやり)に欠けていることを意味する。
つまり、才能や成果だけで人の価値は決まらない。
仁とは、誠意・温かみ・他者への配慮といった、内面的な徳を備えて初めて達する境地なのだ。
技術や力があっても、他者を思う心がなければ、それは未完成。
この章は、真の人間力とは何かを問いかけている。
原文と読み下し
子游曰(い)わく、吾(わ)が友(とも)の張(ちょう)や、能(よ)くし難(がた)きを為(な)す。然(しか)れども未(いま)だ仁(じん)ならず。
意味と注釈
- 吾が友の張:
子游が「友」と呼ぶ子張のこと。実力のある人物であり、儒家の門下でも才能を認められていた。 - 能くし難きを為す:
普通の人にはできないことをやってのける、つまり非常に優秀で努力家であること。 - 未だ仁ならず:
しかし、人格面での完成、すなわち「仁」の境地には至っていない。
ここでの「未仁」は、誠実さや他者への思いやりが十分ではないという意味合いを含んでいる。
パーマリンク(英語スラッグ)
talent-without-compassion
他の候補:
not-yet-benevolent
ability-needs-heart
greatness-demands-virtue
この章句は、能力・実績と人格・徳の間にある違いを鮮やかに描き出しており、
「できる人」が「立派な人」になるために欠かせないものは何かを深く問いかけています。
1. 原文
子游曰、吾友張也、爲難能也、然而未仁。
2. 書き下し文
子游(しゆう)曰(いわ)く、吾(われ)が友(とも)の張(ちょう)や、能(よ)くし難(がた)きを為(な)す。然(しか)れども未(いま)だ仁(じん)ならず。
3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)
- 子游曰く、吾が友の張や…
→ 子游は言った。「私の友人である子張は、」 - 能くし難きを為す。
→ 「他の人には難しいことを立派にやり遂げる力がある。」 - 然れども未だ仁ならず。
→ 「それでも、まだ“仁”には至っていない。」
4. 用語解説
- 子游(しゆう):孔子の弟子。礼楽に通じ、バランス感覚に優れた人物。
- 張(ちょう):子張。孔門十哲の一人で、学問や実行力には優れていたが、やや名誉心が強い一面もあったとされる。
- 難能(なんのう)を為す:人がやりにくいことをやり遂げること。才能・努力の結晶。
- 仁(じん):儒教における最高の徳。思いやり・慈しみ・誠実な人間愛。
5. 全体の現代語訳(まとめ)
子游はこう言った:
「私の友人である子張は、人がなかなかできないような難しいことをやり遂げる能力がある。
しかし、それでもまだ“仁”の境地には達していない。」
6. 解釈と現代的意義
この章句は、**「才能と徳の違い」**を明確に示しています。
- 子張の能力は高く評価されている(行動力・実行力・困難への挑戦)。
- しかし、それだけでは“仁”には至らない。
- 「仁」は、単なる行動・成果ではなく、心のあり方・人への思いやりという、より深い次元の徳を指す。
つまり、**「できること」と「人徳があること」は別の次元であり、両立してこそ理想」**だという儒家的価値観が表れています。
7. ビジネスにおける解釈と適用
✅「成果があっても、信頼されるとは限らない」
優れた業績や課題解決能力があっても、周囲への敬意や配慮が欠けていれば、“仁”ではない。
信頼は、行動+人間性で築かれる。
✅「リーダーには“実力”と“人徳”の両方が必要」
部下を率いる立場にある人は、能力だけでなく共感力や誠実さを持ってはじめて、真の影響力を持つ。
✅「難事を成すよりも、人の心に寄り添うほうが難しい」
プロジェクトの成功や目標達成よりも、「他者への思いやり」や「誠意をもって接する」ことの方が難しく、重要なこともある。
8. ビジネス用の心得タイトル
「難事を為すなれど、仁に至らず──“人に信頼される”には理由がある」
– 実績だけでは足りない。人の心を動かすのは、徳の深さと誠意ある姿勢である。
この章句は、成果重視の現代社会において、**「人としての深み」**や「誠実な心のあり方」の重要性を再確認させてくれます。
子張のように有能であっても、なお「未だ仁ならず」と評される──この厳しくも温かい視点は、私たち自身の成長にも大きなヒントを与えてくれます。
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