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信なくして、導きも忠告も届かない

子夏は、信頼の重要性について語った。
君子は、まず人々からの信頼を得てから、その人々を働かせる。
信頼がないままに命じれば、人々はそれを自分たちを苦しめる行為だと受け取ってしまう。

同じように、君主や目上の人に対しても、信頼関係を築いた上で諫言(進言・忠告)を行うべきだ
信頼もないままに意見を述べれば、相手はそれを中傷や反抗と受け取ることになりかねない。

つまり、信頼はあらゆる人間関係における「前提」であり、説得や指導の「条件」でもある
力ではなく、まず信。忠告より先に、信用を得ること。それが君子の基本姿勢である。


原文と読み下し

子夏曰(い)わく、君子(くんし)は信(しん)ありて後(のち)、其(そ)の民(たみ)を労(ろう)す。未(いま)だ信ぜられざれば、則(すなわ)ち以(もっ)て己(おのれ)を厲(くる)しむと為(な)すなり。信ありて後に諫(いさ)む。未だ信ぜられざれば、則ち以て己れを謗(そし)ると為すなり。


意味と注釈

  • 信ありて後に労す
     まず信頼を得てから、物事を任せたり、人を使ったりするべきという順序の教え。
  • 己を厲ますと為す
     信頼がない中で命令されると、人々は「自分を苦しめようとしている」と感じてしまう。
  • 信ありて後に諫む
     忠告や進言も、まず信頼があってこそ意味がある。聞く耳を持ってもらうためには信が前提。
  • 己を謗ると為す
     信頼がない相手からの忠告は、悪意ある非難と受け取られてしまう。

1. 原文

子夏曰、君子信而後勞其民、未信則以爲厲己也。信而後諫、未信則以爲謗己也。


2. 書き下し文

子夏(しか)曰(いわ)く、君子(くんし)は信(しん)ありて後(のち)、其(そ)の民(たみ)を労(ろう)す。未(いま)だ信ぜられざれば、則(すなわ)ち以(もっ)て己(おのれ)を厲(やま)しむと為(な)すなり。信ありて後に諫(いさ)む。未だ信ぜられざれば、則ち以て己れを謗(そし)ると為すなり。


3. 現代語訳(逐語/一文ずつ訳)

  • 子夏曰く、君子は信ありて後、其の民を労す。
     → 子夏は言った。「君子(理想のリーダー)は、人々からの信頼を得てから、はじめて彼らに労苦を課す。」
  • 未だ信ぜられざれば、則ち以て己を厲ましむと為すなり。
     → 信頼がまだなければ、人々はそれを“自分を苦しめようとしている”と受け取ってしまう。
  • 信ありて後に諫む。
     → また、忠告や助言は、相手の信頼を得た後にするものである。
  • 未だ信ぜられざれば、則ち以て己れを謗ると為すなり。
     → 信頼されていなければ、その忠告も“自分を悪く言っている”と誤解されてしまう。

4. 用語解説

  • 子夏(しか):孔子の高弟。教育・倫理に関する発言が多く、思慮深い人物。
  • 君子(くんし):徳と知性を備えた理想のリーダー。
  • 信(しん):信頼、信用、誠実さ。
  • 労す(ろうす):働かせる、苦労させる、努力を求める。
  • 厲(やま)しむ:厳しくする、苦しめること。ここでは「苛酷に扱われている」と感じること。
  • 諫む(いさむ):忠告する、諭す。
  • 謗(そし)る:中傷する、悪口を言うこと。

5. 全体の現代語訳(まとめ)

子夏はこう言った:
「理想的なリーダーは、まず信頼を得た上で、人々に努力を求める。
信頼を得ないままそれをすると、部下たちは“自分を苦しめようとしている”と誤解する。
また忠告も、相手の信頼があってはじめて効果を持つ。
信頼のない状態で意見を言えば、相手はそれを“中傷”と受け取ってしまうのだ。」


6. 解釈と現代的意義

この章句は、信頼があってこそリーダーの行動や言葉が正しく受け取られるという、組織や人間関係の本質を突いたものです。

  • 信頼なき指導は「支配」や「強制」と誤解される
  • 信頼なき忠告は「攻撃」や「中傷」と誤解される

つまり、行動や言葉の「正しさ」よりも、その前提にある信頼関係がすべてを決めるという教えです。


7. ビジネスにおける解釈と適用

✅「信頼なくして指示なし」

上司が部下にタスクや負荷を与える場合、それが「成長の機会」と捉えられるか、「ただの押し付け」と受け取られるかは、信頼関係にかかっている。

✅「フィードバックは信頼の上に成り立つ」

どんなに正論でも、信頼がなければ反発を招くだけ。まずは誠実なコミュニケーションで信頼を築くことが前提。

✅「リーダーの言葉に“効力”を持たせる条件」

相手が「この人の言葉なら信じられる」と感じて初めて、指導や忠告が相手の心に届く。信頼構築はリーダーの最優先課題である。


8. ビジネス用の心得タイトル

「信なき命令は苛政に、信なき忠告は中傷に──まず信を築け」
– 人を動かす前に信頼を得よ。人に言葉を届ける前に、心を通わせよ。信なき指導は、すべて裏目に出る。


この章句は、現代のマネジメントや人間関係にも深く通じる原則であり、リーダーに求められる“信”の根本的意義を明確に示しています。

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